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2021.12.23

遺伝子解析で検証。オミクロン株の特長とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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今、日本でも感染者が増え続けているオミクロン株。このオミクロン株にはどんな特徴があるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、未発表の論文のサーバーに掲載されていたものですが、オミクロン株の遺伝子の特徴を、他の変異株との比較において検証した内容です。

▼石原先生のブログはこちら

オミクロン株の遺伝子解析からわかること

デルタ株の猛威が日本では収束に向かいつつある中、世界では新しい変異株であるオミクロン株(B.1.1.529)が、その強い感染力でデルタ株に切り替わっています。

どうやらその重症化率は、デルタ株よりかなり低そうなのですが、感染力が高いことは間違いがなく、その性質は不明の点が多いのが実際です。

それでは、オミクロン株の遺伝子解析から、何か分かることはあるのでしょうか?こちらをご覧下さい。

これは新型コロナウイルスの主要な変異株のうち、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、そしてオミクロン株の5種の変異株の持つ、スパイク部の遺伝子変異の部位と種類を表示したものです。

変異の多くには共通性があるのですが、オミクロン株はこれまでの変異株より多い26箇所のアミノ酸の変異を有していて、そのうちの23カ所は塩基の置換によるもので、2カ所は欠失によるものですが、残りの1カ所は別の塩基が挿入されたins214EPE変異で、これについては、これまでの変異株に見られないオミクロン株のみの特徴です。

実はこの挿入による変異は、元々別個の感冒の原因ウイルスである、HCoV-229Eというコロナウイルスが、身体の細胞に同時に感染することで行なった可能性があるのです。

風邪とコロナのウイルスが同一化して起きる現象

こちらをご覧下さい。

これはオミクロン株になる前段階のウイルスと、通常の感冒の原因となるコロナウイルスが、人間の細胞に同時に感染した状態を仮定したものです。
細胞内で感冒のウイルス遺伝子の一部が、新型コロナウイルスの遺伝子に挿入され同一化することにより、オミクロン株が生まれたのではないか、というメカニズムが提示されています。

ただの風邪に近づいているのではないか

本当にこの通りのことが起こったかどうかは推測でしかないのですが、弱毒性の通常の感冒ウイルス遺伝子の一部が、一体化することによってオミクロン株が生まれ、その感染力を増した一方、性質としては弱毒化して通常感冒に近づいているのではないか、という推測は非常に興味深く、今後の臨床的な検証を注視したいと思います。

SF的には、強毒性のウイルス流行時に、そのウイルスに弱毒性の感冒ウイルス遺伝子を意図的に組み込むことにより、弱毒化して収束される、というようなアイデアも面白そうですし、何より遺伝子の変異自体は常に生じているのに、何故特定の変異株のみが増殖してその勢力を拡大し、感染の主体を占めるに至るのか、その構造にその秘密があるのかどうか、というような点など現実として考えるとゲンナリですが、フィクションとして考えれば興味は尽きないところです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36