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2020.04.29

新型コロナウイルス感染症にアビガンは効くのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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報道では、新型コロナウイルス感染症にはアビガンが投与されるとよく聞きます。
普段の生活では、あまり聞きなじみのない薬アビガンですが、効果はあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、もうお馴染みの査読前の論文を保存するサーバー、medRxivに2020年3月27日に投稿された、インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)の、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果を、同じくインフルエンザ用に開発されたアルビドール(ウミフェノビル)と、1対1で比較した臨床試験の論文です。

▼石原先生のブログはこちら

アビガンは新型コロナウイルスに効果があるのか?

現状新型コロナウイルス感染症に確実に有効という薬剤はなく、初期に使用するべきか、悪化してから使用するべきか、予防的に使用するべきか、といった点についての現時点の方針も、明確にはなっていません。

今度またまとめて記事にしたいと思っていますが、現状世界的に最も評価され期待されている薬は、レムデシビルとクロロキン(ヒドロキシクロロキンを含む)で、アビガンの評価は日本以外ではそこまでではありません。

それは決して根拠のないことではなくて、培養細胞に新型コロナウイルスを感染させた基礎実験において、抗ウイルス効果の1つの指標であるEC50(これはウイルスの増殖を50%抑制する濃度という意味です)という数値が、これは低いほど有効性が高いことになるのですが、レムデシビルが0.77μM、クロロキンが1.13μMであったのに対して、同じ実験系ではアビガンは61.88μMであったことにも起因しています。

ただ、これはあくまで基礎実験ですから、臨床的効果はこれとは異なる、という可能性も勿論あります。

アビガンと抗ウイルス剤アルビドールの回復率を比較検証

今回の臨床試験は中国で行われたもので、アビガンと比較されているアルビドールは、ロシアで開発された抗ウイルス剤で、現行ロシアと中国のみで使用されています。

薬のメカニズムとしては、アビガンはRNAポリメラーゼ阻害剤と言って、感染した細胞の中でウイルスが増殖すること自体を、ブロックするような仕組みの薬です。
一方のアルビドールはウイルス粒子の突起が、組織のACE2に結合することを阻害し、感染の際のウイルス被膜と細胞膜の融合も阻止する、というユニークな効果を持っています。

どちらもインフルエンザ用に開発され、新型コロナウイルスにも有効な可能性はあるものの、現時点までに臨床的なデータは乏しい、という点では同じです。

今回の臨床試験は中国の3つの病院において、新型コロナウイルス肺炎と診断された18歳以上の240名を、くじ引きで2つの群に割り付け、一方はアビガンを使用し、もう一方はアルビドールを使用して、7日間の治療後の回復率を比較しています。
この回復というのは、臨床的に平熱で咳や低酸素血症などが改善している、という臨床的回復のことを指しています。
その結果、アビガン群での回復率は61.20%であったのに対して、アルビドール群の回復率は51.67%で、両者に明確な差は認められませんでした。
発熱や咳の症状に関しては、アビガン群でやや早く回復する傾向は認められました。

アビガンの有害事象は、尿酸値の上昇が多く、それ以外には精神症状や吐き気などの胃腸症状が、アルビドールより多く認められました。

アビガンについてはもう1つ中国の臨床試験データがあり、軽症例での一定の改善が認められたというものでしたが、現在は論文自体が取り下げられています。

アビガンの臨床試験報告に期待

日本では症例報告は複数発表されていて、概ね「改善した」というものですが、実際には多くの薬剤と併用されているので、比較対照はなく、臨床試験としての価値のあるものは、現時点ではまだないようです。

日本の病院では、「この病院ではこの治療」というような割り付けが、ある程度行われているように漏れ聞いているので、アビガンの有効性がある程度まとまった形で、近い将来に報告されることを期待したいのですが、現行はこのようなデータしかなく、手探りで使用をしているのが実際であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36