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2020.03.11

新型コロナウイルス、感染治癒後に再度陽性になるケースがあるのはなぜ?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスは、インフルエンザとは違い、治った後に再度検査をすると陽性になるケースが度々みられます。これはなぜでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2020年2月27日ウェブ掲載されたレターですが、日本でも報告事例のあった、一旦症状が改善して遺伝子検査も陰性化した以降に、再び検査で陽性反応が認められた事例4例をまとめた、中国の単独施設における報告です。

▼石原先生のブログはこちら

ウイルスの中には感染力が持続するものもある

インフルエンザウイルスの感染症であれば、一度インフルエンザに感染し、それが一定期間を経過して治癒すれば、身体の免疫機能によりウイルスは駆除されるので、インフルエンザの検査をしても当然陰性になります。
その後同じ型のウイルスに関しては、1年以上は感染は起こりません。

ただ、ウイルスによっては、慢性肝炎のウイルスのように、感染が持続してしまうようなウイルスもあります。
また、水痘のようなウイルスは、一度感染すると感染自体は2度は起こりませんが、体内に潜んだウイルスの再活性化により、帯状疱疹という別個の病気を引き起こします。

従って、ウイルス感染は常に一過性、ということではないのです。

ただ、仮にコロナウイルスのように、飛沫や接触感染を起こし、1人の感染者から2人以上に感染するようなウイルスが、高率に持続感染をして、感染力を持ち続けるとすれば、これを放置することは人類の種としての存続を、揺るがすような事態にもなりかねません。

かつても同じような病気はあり、その治療法が見つかるまでは、感染した患者さんは、死ぬまで隔離するという対策が取られました。
ハンセン病はそうした病気と誤解されたため、隔離政策という悲劇が起きたことは、皆さんもご存じの通りです。

それでは、今回の新型コロナウイルスについては、その実際はどうなのでしょうか?

中国武漢の事例では、138人中4例が治癒後に陽性に変化した

今回の報告は、何度もこれまでにも取り上げられている、武漢大学中南病院(Zhongnan Hospital of Wuhan Univercity)での、事例報告です。
この病院の新型コロナウイルス感染の事例は、同じJAMA誌に138例まとめたものが論文化されていますが、院内感染が多かったことが1つの特徴です。

今回のケースは、いずれも一定の基準で感染が治癒と判断されたものの、その後再検査でウイルス遺伝子が陽性と、陰性から陽性に変化した事例4例です。

4人とも当該の病院の医療従事者で、院内感染の事例ですが、3人は発熱などの症状を来した顕性の感染で、もう1人は濃厚接触のため検査したら陽性であった、という無症候性の感染です。
そのうちの1人は入院での治療を行っています。年齢は30から36歳です。
4人とも胸部CT検査を行い、すりガラス様陰影や浸潤影などの肺炎所見が確認されています。
無症候性の患者も、CTでは軽度の肺炎像が確認されています。
治療はタミフルが5日間使用されています。

治癒の基準は、3日以上平熱で、呼吸器症状がなく、胸部CT検査で活動性の病変が認められず、少なくとも1回の遺伝子検査でウイルス遺伝性が陰性、という条件になっています。

4人の医療従事者はこの基準を満たして、治癒と判断されたのですが、その5から13日後に行われた遺伝子検査で、今度は陽性と判定されました。
それから4、5日の期間をおいて、3回の検査を繰り返してもいずれも陽性で、PCRのキットを別の物に交換しても、結果は同じでした。
4人とも症状はなく胸部CT検査でも肺炎再燃の所見はありませんでした。
4人は医療従事者で、感染予防には気を配っていたので、再感染という可能性は低そうです。

再感染ではなく「持続感染」の可能性が大

この4例のケースは、ほぼ新型コロナウイルスの持続感染と考えられます。
ただ、一旦陰性になったのに、その後一定期間をおいて陽性化するのが何故なのか、という点は不明です。
回復期に一旦ウイルス量が減少するけれど、その後増加して持続感染に移行する、というようなメカニズムがあるのでしょうか?
その辺りはまだ分かりません。

日本の事例では、風邪や発熱などの症状があったので再検査をした、という経緯で判明しています。
これが新型コロナウイルス感染の再燃、ということであれば深刻ですが、おそらく別の感染を併発したのかな、というようには思われます。
ただ、これは報告を待つ必要がありそうです。

無症状の持続感染がどれくらい発生し、どれくらい感染力を持つかが問題

現状の問題は、新型コロナウイルスに感染した患者さんのうち、どのくらいの比率で、無症候性の持続感染、すなわちキャリアの状態になるのか、キャリアの状態で周囲に感染するリスクがありうるのか、といった点にあるように思います。

今回の遺伝子検査は、全て咽頭拭い液が検体として利用されていますが、その方法が適切であるのかを含めて、ウイルスの動態がもう少し明確になるのは、細胞レベルや動物実験などの基礎実験のデータが、ある程度揃うのを待つ必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36