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2020.01.15

運動後の血圧低下を防ぐにはうがい薬が効果的?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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人間の身体は面白いもので、意外な部位同士が関係していることもあるそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のFree Radical Biology and Medicine誌に掲載された、運動後の血圧低下という生理現象と、口内細菌とに関連があるのでは、という面白い発想の研究についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

運動後の血圧低下は血液中の一酸化窒素の影響

運動をするとその時は脈拍が増加して、心臓から拍出される血液量も増え、それにより血圧は上昇します。
その一方で、同時に血管は拡張し、そのため運動をした後には、脈拍が低下する一方で血管の拡張はしばらく持続するので、今度は血圧が低下することになります。

この血圧の低下は、血管の内皮細胞で産生される一酸化窒素が、その原因であると考えられてきました。
しかし、最近の研究では血液中での一酸化窒素の産生を、ブロックするような薬を注射しても、運動による血管拡張作用は抑制されない、というような結果も報告されています。

もしこれが本当であるとすると、運動後の血管拡張には、これまでとは別個のメカニズムが存在している、という可能性が考えられます。
それはどのようなメカニズムでしょうか?

最近の研究によると、血液中の一酸化窒素の25%は、口の中で常在の細菌により産生される、という報告があります。
それは事実でしょうか?

うがい液で口中を殺菌したら一酸化窒素が産生されるかを検証

殺菌すると一酸化窒素の産生が抑えられ、血圧低下も抑制

今回の研究はそれを検証する目的で行われたもので、23名の健康なボランティアをくじ引きで2つの群に分けると、一方は殺菌作用のあるクロルヘキシジンを含むうがい液で、口の中をゆすぎ、もう一方は殺菌作用はないうがい液で同じように口をゆすいで、その後に同じ運動を行って、その後の一酸化窒素の産生能と血圧の低下率を測定しました。

その結果、口の中を殺菌してから運動を行うと、殺菌しない場合と比較して、運動中の一酸化窒素の産生能が低下し、血圧の低下も有意に抑制されていました。

つまり、運動による一酸化窒素の産生と血圧低下は、口の中の細菌が関連している現象だ、ということになります。

口中細菌には身体の環境を維持する役割も

実は口の中の細菌は、身体の環境の維持に、大きな役割を果たしているのかも知れません。面白いですね。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36