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2023.04.14

高齢者の血液ナトリウム濃度と認知症リスクの関係は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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高齢者に多い低ナトリウム血症は、ナトリウムを維持するホルモンの働きが弱まって、脱水症を起こしやすくなる症状。重いときは神経症状や、認知機能低下も起こすことがあるといいます。

今回ご紹介するのは、Age and Aging誌に2023年1月掲載された、血液のナトリウム濃度と認知機能との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

血液中のナトリウム濃度が下がると、認知機能に影響がでる?

血液のナトリウム濃度が低下する低ナトリウム血症は、高齢者では最も頻度の高い電解質代謝異常として知られています。

高齢者ではナトリウムを維持するホルモンの働きが、加齢により弱まることが多く、水よりもナトリウムがより喪失するようなタイプの、脱水症を起こしやすいのです。また癌や心不全などの病気も低ナトリウム血症の原因となりますし、高血圧などの治療薬が、その原因となることも多いのです。

高度の低ナトリウム血症は脳の浮腫を伴い、そのため意識障害や痙攣などを起こすことがありますし、多彩な神経症状や、認知機能低下などを来すこともあります。

しかし、慢性に進行する比較的軽度のナトリウムの低下が、認知機能などに与える影響については、まだあまり明確なことが分かっていません。

認知機能と血液のナトリウム濃度との関連を比較検証

今回の研究はオランダにおいて、中高年の慢性疾患についての疫学データを二次利用したものですが、平均年齢が63.6歳の一般住民8028名を、中間値で10.7年観察し、認知機能と血液のナトリウム濃度との関連を比較検証しています。

その結果、血液のナトリウム濃度の低下と、経過中の認知症のリスクとの間には、明確な関連は認められませんでした。

その一方で軽度のものを含む低ナトリウム血症では、集中力と精神運動機能の低下が認められました。

高齢者にとって、血液のナトリウム濃度は大切な指標

今回の検証では、軽度の低ナトリウム血症と認知症との関連は、明らかなものではありませんでしたが、ナトリウムの低下が、認知機能に一定の影響を与える可能性は示唆されていて、高齢者の健康状態を考える上で、血液のナトリウム濃度は、重要な情報の1つであることは間違いがないようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36