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2023.07.11

重症化予防に有効!COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療にアレルギーの薬が効く?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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落語家の桂歌丸さんや俳優の宇津井健さんらが患っていたというCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。息苦しさや咳などが特長の呼吸機能が低下していく病気です。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年5月21日ウェブ掲載された、喘息やアトピー性皮膚炎の治療薬を、COPDの重症化予防に使用した臨床試験についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

急激に悪化することがあるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に喫煙による慢性気管支炎や肺気腫などの、肺の変化を総称したもので、その進行により呼吸困難が生じると、歩行時の息切れや咳痰などのために、日常生活は大きく制限されますし、患者さんの生命予後にも大きな影響を与える、深刻な病気でもあります。

COPDの進行において、感染などをきっかけとして、呼吸機能を含めた病状が急激に悪化することがあり、これを急性増悪と呼んでいます。

肺炎から呼吸不全となって亡くなることもありますし、回復しても、呼吸機能は急性増悪以前より、悪化してしまうことも多いのです。

従って、急性増悪を予防することが、COPDの管理においては極めて重要です。

現状その主な予防としては、誘因となる感染症を予防することに力点が置かれていて、今でしたら、インフルエンザや新型コロナのワクチン接種を施行。基本的な手洗いなどの感染対策が主体となります。

COPDの急性増悪を抑制できる治療とは?

それでは、COPDの急性増悪を有効に抑制するような、薬物治療はないのでしょうか?

2型炎症という考え方があります。

これはもともとは特定の働きをするTh2という種類のリンパ球が、関連する炎症として考えられていましたが、今ではもう少し広い概念として、インターロイキン4、5、13といったサイトカインが、関連する炎症の形態として定義されています。

この2型炎症は気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの、アレルギー性の病気の炎症の主体となっていて、こうしたインターロイキンを抑制する生物学的製剤が、その治療として使用されています。

COPDは基本的には2型炎症主体の病気ではありませんが、その20から40%には2型炎症の関与があり、急性増悪の引き金にもなっている、という報告があります。ステロイド(糖質コルチコイド)が有効なケースがあり、それが2型炎症を抑制しているためではないかと推測されています。

それでは、喘息と同じように、2型炎症の関与が疑われるCOPDの患者においては、そのサイトカインを抑制する薬が、急性増悪の予防にも有効となるのでしょうか?

気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの薬が有効

今回の研究では、通常の気管支喘息の治療を継続しても急性増悪のリスクが高く、2型炎症の関与が疑われるCOPDの患者トータル939名を、患者にも主治医にも分からないように、くじ引きで2つの群に分けると、一方では2型炎症のサイトカインを抑制する効果を持つ生物学的製剤である、デュピルマブ(ヒト型抗ヒトIL4/13受容体モノクローナル抗体)を、2週に一度皮下注射で使用し、もう一方は偽注射を施行して52週間の治療を継続しています。

2型炎症の関与があるかどうかは、血液の好酸球数が300/μL以上と増加が認められたかどうかで、簡易的に判定されています。

その結果、偽注射と比較してデュピルマブ群では、急性増悪のリスクが30%(95%CI:0.58から0.86)有意に抑制されていました。また呼吸機能の指標も改善が認められました。

このように、一定の2型炎症を抑制する治療により、COPDの急性増悪が一定レベル予防された、という結果が得られました。

今後の検証にも期待

こうした薬は非常に高額なので、今後どのような対象者に、こうした治療を行うべきかは議論のあるところですが、これまであまり有効な治療法のなかった、COPDの急性増悪予防に、一定の有効性が見られたという結果は非常に興味深く、今後の検証にも期待をしたいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36