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2019.01.02

50歳以上の年齢における帯状疱疹予防ワクチンの有効性の比較【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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体調を崩した時に発症する帯状疱疹は、ピリピリした痛みが続く辛い病気。効果のある予防法はあるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、2種類の帯状疱疹予防ワクチンの比較を行った論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

帯状疱疹とは?

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、強い神経痛を伴う病気で、症状自体は一時的ですが、その後に帯状疱疹後神経痛という、その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、おそらくは神経節という部分に、残存しているウイルスが、身体の細胞性免疫が低下すると、再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、血液の抗体の上昇で判断し、抗体が上昇していれば、再び水ぼうそうに感染することはないのですが、身体に潜んでいるウイルスが、帯状疱疹という形で再燃することは、抗体が陽性であっても起こり得るのです。

年齢を重ねると発症しやすくなる病気

水ぼうそう自体の予防は、抗体があれば充分ですが、帯状疱疹の予防には、このウイルスの抗原に反応する、CD4陽性のTリンパ球という、免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、こうした細胞も多く存在しているので、帯状疱疹は予防されているのですが、時間が経つと次第にその数は減り、年齢と共にその産生能自体も低下するので、帯状疱疹が発症し易くなる、という理屈です。

どうすれば予防できる?

水痘ワクチンを強めて打ったらどうなるか

さて、帯状疱疹を予防するには、抗原刺激を与えて、それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、このウイルスを弱毒化したそのものです。
通常小さなお子さんに2回接種して、水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、このワクチンを大人に打てば、免疫は再び賦活され、帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、基準値としては10倍以上多い抗原量を持つワクチンが、帯状疱疹予防用に開発され、アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。(※2)

それによると、50から59歳の年齢層においては、帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、帯状疱疹の発症が70%抑制され、60から69歳では64%、70歳以上では38%の抑制が認められた、という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、発症の抑制が有意に確認されているのは、8年までというデータがあります。

このように、強化水痘ワクチンを接種することによって、ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、帯状疱疹の発症が、一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、満足の行く効果とは言えません。

日本では水痘と同じワクチンが使われているが、有効かは不明

日本においても1990年代の早い時期に、国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、50から69歳で約90%、70歳以上で約85%で、接種による細胞性免疫の上昇が認められた、という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、というだけのもので、それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、実際に確認しているものではありません。

日本においては、従来から使用されている水痘生ワクチンが、そのまま50歳以上の帯状疱疹予防への適応となり、2016年の4月より承認され、添付文書の改訂が行われました。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、欧米の帯状疱疹予防用の物より、基準値としては低いけれど、実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、という記載が多く見られ、今回改訂された添付文書においても、海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、という考えから、臨床的な有効性のデータは、海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、その真偽は定かではありません。

要するに、国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、有効であるかどうかの、精度の高いデータは存在していないのです。
(この点については、ほぼ確実と思うのですが、全ての知見に目を通している訳ではないので、もしデータが発表されているようでしたら、優しくご指摘を頂ければ幸いです)

もっと安全で効果の高いワクチンを

さて、前述の海外データでも分かるように、水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、その効果は高齢になるほど減弱し、70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、高度に免疫の低下した患者さんや、骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、高齢者や免疫の低下した患者さんにも、使用の可能なワクチンの開発が、海外においては進められました。

2015年のNew England…誌に、その第3相臨床試験が発表されています。それがこちらです。(※3)
使用されたワクチンは、日本でも製造販売承認が得られているグラクソ社のもので、HZ/suワクチンと命名されています。
これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、細胞性免疫の強い増強作用のある、AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

HZ/suワクチンを用いたところ、高い有効率が認められた

このワクチンを2ヶ月間隔で、2回筋肉注射をして、その後平均で3.2年の経過観察を行ない、その間の帯状疱疹の発症を、偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、それを7698例のワクチン接種群と、7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、50から59歳、60から69歳、70歳以上という、年齢毎に解析もされています。
これは勿論、強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…トータルでは観察期間中に、偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)の帯状疱疹が発症したのに対して、ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、50から59歳の有効率が96.6%、60から69歳の有効率が97.4%、70歳以上の有効率が97.9%で、年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、ワクチン接種群が高くなりましたが、その多くは接種部位の腫れや痛みで、自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、ここまで有効なワクチンはこれまでになく、この結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

高齢者への検証が不十分だったので、数を増やして調査

ただ、この試験結果では、70歳以上の年齢層の対象者は、ワクチン接種者で1809名、コントロールを含めても3632名です。

これでは70歳以上の高齢者への、効果と安全性を確認するには不充分ということで、同一試験の延長として、同じ第3相の臨床試験として、ワクチン接種群が6950名、コントロール群が同じ6950名、平均年齢が75.6歳で、全て70歳以上の高齢者においてのデータが発表されています。
平均の観察期間は3.7年です。それがこちらです。(※4)

観察期間中に、ワクチン接種群での帯状疱疹の発症率は、年間1000人当たり0.9件(実数で23件)であったのに対して、コントロール群では9.2件(実数で223件)で、ワクチンの有効率は84.2%(84.2から93.7)と算出されました。

年齢別に見ると、70代が90.0%で、80歳以上が89.1%です。

これを2015年に発表された、50歳以上の年齢層の試験と合わせて解析すると、70歳以上の16596例のデータとして、ワクチンの有効率は91.3%(86.8から94.5)で、帯状疱疹後神経痛の予防効果は88.8%(68.7から97.1)でした。

重篤な有害事象は、コントロール群との間で有意な差はありませんでした。

この結果を見る限り、70歳以上の年齢層においては、従来の水痘生ワクチンやその抗原量を調整したワクチンでは、帯状疱疹予防効果は不充分で、免疫増強剤を使用したサブユニットワクチンに軍配が挙がる、ということになります。

HZ/suワクチンは予防効果が高いが、有害事象も多い

ただ、これはZOSTAVAXとの直接比較ではありません。
両者の臨床データを確認してみると、ZOSTAVAXのコントロール群の方が帯状疱疹後神経痛の頻度は多く、より感染が悪化しやすいような対象が、選ばれている、という可能性があります。

従って、全く同じ対象群で比較すれば、サブユニットワクチンとそれほどの差はないのではないか、という推測も可能なのです。

そこで今回の論文では、ネットワークメタ解析という手法を用いて、両者のワクチンの効果と安全性を比較検証しています。

5つの臨床試験のデータをまとめて解析した結果として、50歳以降の全年齢で見ると、強化型の生ワクチンは偽ワクチンとの比較で、検査で確認された帯状疱疹の発症を、明確に予防する効果が確認されませんでした。

一方で免疫増強剤を添加したHZ/suワクチンは、偽ワクチンとの比較においても、強化型生ワクチンとの比較においても、明確な帯状疱疹の予防効果を示していました。

ただ、HZ/suワクチンは偽ワクチンとの比較において、局所の腫れや発熱、関節痛などのワクチン接種に伴う有害事象が、有意に多く認められていて、強化型生ワクチンとの比較においても、有意ではないものの有害事象が多く傾向を示していました。
重篤な全身的な有害事象や死亡リスクについては、どちらのワクチンも明確な増加は認められませんでした。

どのワクチンを選ぶかにはまだ議論が必要

このように、ワクチンの有効性については、間違いなく免疫増強剤を含むサブユニットワクチンが、優れているのですが、その一方で有害事象は多い傾向も否定は出来ず、今後どちらのワクチンを第一選択として使用するべきか、日本においても議論となるように思われます。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36