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2018.12.26

なってしまったらどうする?治療の今【他人事ではないアルコール依存症#3】

KenCoM公式ライター:黒田創

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前回の記事で、ご自分のアルコール依存度をセルフチェックする方法としてAUDITというスクリーニングテストを紹介しました。皆さんの結果はいかがだったでしょうか。

10点未満であれば現時点では飲み方に大きな問題はありませんが、10~19点の方は今の飲み方を続けると健康や社会生活に影響が出る恐れがあります。そして20点以上の方はアルコール依存症が疑われ、すでに高血圧や肝機能障害、糖尿病、脂質異常症、十二指腸潰瘍などの病気に罹っていたり、日々の生活に悪影響が及んでいる可能性が高いと考えられます。

依存症と診断された場合、専門家の指導のもと段階を踏んで治療する必要があります。治療法について、東京アルコール医療総合センターの冨高 緑先生にお話を伺いました。

完全にお酒を断つことが治療の基本

入院治療とは?

アルコール依存症の治療は、多くの場合入院治療をおすすめしています。症状が比較的軽く、家族や周囲のサポートも受けられると判断された場合は入院せずに外来治療で寛解を目指すケースもあります。
入院治療の場合、3か月間の教育入院という形をとり、まずは身の回りからアルコールを完全に排除します。最初の2~3週間は離脱症状が表れるのでその対処や疾患の治療などを行い、心身ともに落ち着いてきたらその後も断酒を続けるための専門療法を始めるのが一般的。東京アルコール医療総合センターの場合、入院中もこの期間は自由に外出できます。

ここでポイントとなるのが、一度アルコール依存症と診断されたら完治のためには断酒が基本となること。治療が順調に進んでも、お酒を少しでも飲むと依存症が再発し、酒量のコントロールがきかなくなってしまうケースが非常に多いんです。

そのあたりがこの病気の難しい点で、断酒することで飲酒欲求自体が起こらないようにする必要がある。酷なようですが、そうした方が患者さんにとっては心身ともに楽に過ごせるようになるんですね。場合によってはレグテクトという断酒補助剤を投薬し、飲酒欲求を抑えることもあります。

治療プログラムには医師と数名の患者さんが集まって断酒や回復について話し合ったり、患者さんたちが運営する自助グループに参加し、自分の依存症体験談を語り合う場を持つといった方法があります。断酒生活を本人の意思だけで続けるのはとても難しいため、こうしたグループディスカッションにはとても大きな意味があるのです。特に自助グループについては、退院後も参加することをおすすめしています。

とはいえ、一度依存症になると今までのようにお酒を楽しむことは難しくなるのが現実で、なかなか完治には至らず入院を繰り返す患者さんも多い。だからこそ、そうなる前に自制することが大事になってくるわけです。

外来治療の広まり

最近では断酒の一歩手前、節酒という形で酒量を抑え、少しずつ健康を取り戻していくハームリダクションという治療方針も広まっており、症状が比較的軽い外来治療の患者さんには取り入れることもあります。
2019年には処方薬として節酒補助剤も発売される予定です。

適切な酒量を意識することが減酒の第一歩

スクリーニングテストで10~19点だった方はアルコール依存症の一歩手前、予備軍と考えられます。この段階で酒量を減らせればずっと健康的にお酒を楽しめる可能性が高くなります。そのためには、適切な酒量の基準を知っておく必要があるのです。

厚生労働省は、純度100%のアルコール10gを1ドリンクとして1日平均で男性2ドリンク(20グラム)、女性1ドリンク(10グラム)以下を適度な酒量の目安としています。ではアルコール2ドリンク分というのはどの程度の酒量なのでしょうか。種類別に並べてみましょう。

参照:e-ヘルスネット「飲酒の単位」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html

参照:e-ヘルスネット「飲酒の単位」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html

ビールなら中瓶1本、ワインならグラス1~2杯で1日あたりの適量に達してしまいます。実際、毎日このくらい飲まれている方は多いのではないでしょうか。ちなみに缶酎ハイについては、ここで例に挙げたのは度数5%のケース。前々回でも触れた通り、度数9%のストロング系酎ハイだと500mlのロング缶は完全にオーバー。250ml程度で1日の適量となります。女性の適量はさらにこの半分となりますので、注意が必要です。

お酒との上手な付き合い方を知る

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現状、1日の平均飲酒量が男性で4ドリンク(純アルコール40g)、女性で2ドリンク(純アルコール20g)以上の人は次の方法で減酒にチャレンジしてみてください。

1.上の表を参考に、1回の酒量が1日の適量を超えないようにする。(1日3合、純アルコール60g以上の飲酒で健康障害や様々な飲酒問題が増えるとされている)
2.無理をせずにできる範囲で減らす目標を決め、周囲に宣言する。
3.1週間のうち2日続けて飲酒しない日を設ける。
4.飲酒記録をつける。禁酒した日は◎、目標以内の酒量で抑えた日は○、飲みすぎた日は×とする。
5.記録の結果を見て◎と○が多ければ自分を褒め、×が多ければ素直に反省する。その場合、目標を少し下げても構わない。
6.なるべく自分が依存症予備軍であることを知っている人と飲む。
7.3杯目からノンアルコール飲料に切り替える。
8.チェイサーとして水やお茶を用意し、酒と交互に飲む。
9.小さなグラスにする。
10.なるべく低濃度のアルコール飲料を選ぶ。
11.食べながら、会話をしながらゆっくり飲む。

これらのポイントを心掛けながら飲めば、自然と酒量は減っていくはずです。
特に今は年末年始のお酒を飲む機会が増える時期。断酒しないといけない状況に追い込まれる前に、自分でストップをかけて末永くお酒を楽しめる身体を取り戻しましょう。

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冨高 緑(とみたか・みどり)先生

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【プロフィール】
東京女子医大卒。精神科医。東京アルコール医療総合センター(東京都板橋区)の専従医師としてアルコール依存症治療に長く携わっている。

著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。

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