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2018.07.18

睡眠時間と認知症と死亡リスク【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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睡眠不足が体に悪いのはご存知の通り。しかし、寝過ぎのリスクについては知らない方も多いかと思います。
実は、睡眠時間が短すぎても長すぎても、認知症や死亡のリスクを高めるという研究がありました。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のJournal of the American Geriatrics Society誌に掲載された、日本の代表的な疫学データを活用した、睡眠時間の長短と認知症の発症リスク、および生命予後との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

睡眠時間と認知症にはどんな関係がある?

睡眠と認知症との関連についてはこれまでにも多くの報告があります。

昼間に眠気や居眠りについては、認知症のリスクや認知機能低下のリスクと、関連があるという報告が複数あり、これは脳の覚醒機能の低下によるものと考えられています。

睡眠時間と認知機能との関連についても複数の報告がありますが、睡眠時間が長い方が認知機能の低下と関連がある、と言う報告がある一方で、睡眠時間と認知機能との間には関連はない、という報告もあってその見解は割れています。

睡眠時間が長いほうが、認知症の発症リスクが高い

2017年のNeuroapidemiology誌に掲載されたメタ解析では、20の疫学研究における、トータルで53942名(平均年齢66.9歳)のデータをまとめて解析した結果、7から8時間未満という平均の睡眠時間と比較して、8時間から10時間以上という長時間の睡眠は、認知機能低下のリスクを1.42倍(95%CI:1.27から1.59)、軽度認知機能障害のリスクを1.38倍(95%CI;1.23から1.56)、認知症のリスクを1.42倍(95%CI:1.15から1.77)、それぞれ有意に増加させていました。(※2、※3)

これは睡眠時間が長い方が、認知症のその後の発症リスクは高い、という結果です。

久山町研究による疫学データを検証

今回の研究は日本の代表的な疫学データの1つである、九州の久山町研究のデータによるもので、登録の時点で60歳以上で認知症のない、トータル1517名の一般住民を対象として、中央値で8.8年間の経過観察を行い、睡眠時間と認知症の発症、および生命予後との関連を検証しています。

睡眠時間は対象者の申告によるもので、5時間未満、5時間から6.9時間、7から7.9時間、8から9.9時間、10時間以上に区分されています。

その結果、経過観察中に294名が認知症を発症し、282名が死亡しています。

睡眠時間は多すぎても少なすぎても、認知症や死亡のリスクが増加

睡眠時間と認知症との関連を見ると、5から6.9時間を基準とした時に、5時間未満では2.64倍(95%CI: 1.38から5.05)、10時間以上では2.23倍(95%CI: 1.42から3.39)と、いずれも有意に認知症のリスクが増加していました。

また、総死亡で見ても、5から6.9時間を基準とした時に、5時間未満では2.29倍(95%CI: 1.15から4.36)、10時間以上では1.67倍(95%CI: 1.07から2.60)と、睡眠時間が長くても短くても、いずれも総死亡のリスクは有意に増加していました。

このリスクの最も低い睡眠5から6.9時間において、対象者が睡眠剤を使用していると、していない場合と比較して、認知症発症リスクは1.66倍に、総死亡のリスクも1.83倍にそれぞれ増加していました。

ただし、薬などが睡眠時間に影響している可能性も

死亡リスクの増加と睡眠時間との関連について、個別の死亡原因との関係を検証しましたが、心血管疾患、癌、呼吸器疾患による死亡には有意な差がなく、それ以外の死因においてのみ、有意な関連が認められました。

このように今回のデータでは、睡眠時間が5時間未満と短くても、10時間以上と長くても、いずれも認知症リスクも総死亡のリスクも増加するという結果になっています。

ただ、これはそうした睡眠の習慣自体がリスクであるのか、それとも睡眠時間を短くしたり長くしたりするような、病気や薬などの影響がそうした結果をもたらしているのか、そうした点は分からない、ということには注意が必要です。

また今回の睡眠時間のデータは、あくまで本人の申告によるものですが、眠れない、と主張する人に限って、実際には意外に多く寝ている、というようなことも経験しているので、それをそのまま鵜呑みにしてデータ化することにも、問題はあるように思います。

認知症と睡眠に深い関連があることは確か

いずれにしても、レビー小体型認知症における、レム睡眠行動異常(夜に夢を見て実際に暴れたりする)は、認知症に先行にしてかなり早い時期から出現している、という知見もありますし、認知症と睡眠というものは、かなり関連の深いものであることは確かなようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36