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2022.07.15

自然感染後のワクチン接種。予防効果はどれくらい?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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過去に新型コロナに感染した経験のある方は、すでに免疫があるからワクチンを追加接種する必要はないと考えがちですが、実はそれだけでは感染予防には繋がらないようです。

今回ご紹介するのは、New England Journal of Medicine誌に、2022年6月15日掲載された、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が、それ以前の感染やワクチン接種で、どれだけ予防可能かを比較検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

今なお感染が広がっているオミクロン株

オミクロン株はBA.1からBA.2と、変異を繰り返しながら、今再度感染者が東京でも増加しています。

クリニックでもRT-PCR検査や抗原検査の陽性率が上昇していて、その中には3回のワクチン接種を済ませている方や、2021年にオミクロン株以外のデルタ株などの流行期に、一度感染している方も、感染していて更にワクチン接種もされている方も含まれています。

これが全てのCOVID-19感染に、共通した現象であるのかどうかは、現時点で何とも言えませんが、少なくともオミクロン株の感染については、現行のワクチン接種のみで完全に予防することは困難で、既に別の型の新型コロナウイルスに感染していても、その感染は完全には予防はされないのです。

それでは、一度デルタ株に感染しているような場合、その後にワクチンを追加接種することで、どの程度感染予防効果は高まるのでしょうか?

感染は防げなくても重症化予防は可能、というような指摘がされることも多いのですが、それは実際に事実と言えるのでしょうか?

自然感染後にワクチンを追加接種するのには意味がある?

今回の検証はカタールにおいて、ファイザー・ビオンテック社製とモデルナ製新型コロナワクチンの接種歴と、遺伝子検査で診断された新型コロナウイルス感染症との関連を、大規模なケースコントロール研究の形式で検証したものです。

ワクチンの接種回数は圧倒的にファイザー・ビオンテック社製が多く、オミクロン株の感染はBA.2の亜型が主体の時期の解析です。

その結果、オミクロン株以外の新型コロナ感染の既往は、その後のオミクロンBA2.株感染のリスクを、46.1%(95%CI:39.5から51.9)有意に低下させていました。ファイザー・ビオンテック社ワクチン2回接種のみでは、その後のオミクロンBA.2株感染に対する有効性は、有意には確認出来ませんでした。ワクチン接種後殆どの事例で、6か月以上が経過していました。

ファイザー・ビオンテック社ワクチンを3回接種した場合、その後のオミクロン株BA.2株感染のリスクは、52.2%(95%CI:48.1から55.9)有意に低下していました。

一度オミクロン株以外の自然感染があり、更に2回ファイザー・ビオンテック社ワクチンを接種した場合、その後のオミクロンBA.2株感染のリスクは、55.1%(95%CI:50.9から58.9)有意に低下していました。

更にオミクロン株以外の自然感染歴があり、3回ファイザー・ビオンテック社ワクチンを3回接種した場合、その後のオミクロンBA.2株感染のリスクは、77.3%(99.5%CI:72.4から81.4)と最も高い有意な低下率を示していました。

自然感染しても3回ワクチンを打てば感染予防につながる

上記の有効率はファイザー・ビオンテック社ワクチンと、オミクロンBA.2株についてのものですが、モデルナワクチンにおいても、オミクロンBA.1株においても同様の傾向が確認されています。ただ、事例はより少なくばらつきも大きいので、有意な差は出ていない組み合わせもあります。

そして、既感染のみを含む、上記のいずれの組み合わせにおいても、重症化と死亡を併せたリスクについては、いずれも70%を超えるリスク低下を示していました。

つまり、自然感染と3回以上のワクチン接種は、単独でも一定のオミクロン株感染予防効果があり、組み合わせることによりその有効性は高まります。

2回のワクチン接種は自然感染と組み合わせれば有効ですが、単独では感染予防効果は接種半年以降は確認出来ません。ただ、重症化予防効果についてみると、感染予防効果より高い70%以上の有効率を、殆どの組み合わせで示していました。

これが現状の感染予防の限界点

いずれにしても、現状自然感染はあっても、3回のワクチン接種を行うことで、高い重症化予防効果と、一定レベルの感染予防効果があり、オミクロン株に特化した抗原を含むワクチンが活用されるまでは、それが現状のワクチンによる感染予防の限界点であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36