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2023.08.29

ワインは心血管疾患を予防できる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ワインはお酒の中でも美容や健康によいイメージがありますが、本当に健康に良い効果があるのでしょうか?

今回ご紹介するのは、Nutrients誌に2023年6月17付で掲載された、ワインの心血管疾患予防効果についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

飲酒量と健康への影響

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、というのは未だ解決はされていない問題です。大量のお酒を飲んでいれば、肝臓も悪くなりますし、心臓病や脳卒中、高血圧などにも、悪影響を及ぼすことは間違いがありません。ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、全く飲まない人よりも、一部の病気のリスクは低くなり、寿命にも良い影響がある、というような知見も複数存在しています。

飲酒が健康に及ぼす各研究の見解

日本では厚労省のe-ヘルスケアネット(※1)に、日本のデータを元にして、がんと心血管疾患、総死亡において、純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、全く飲まない人よりリスクが低い、という結果を紹介しています。

その一方で、2016年のメタ解析(※2)の論文によると、確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、1日1.3グラムを超えるアルコールでは、やはり死亡リスクは増加する傾向を示していた、というようなデータが紹介されています。

2017年に発表されたイギリスの大規模疫学データ(※3)では、概ね多くの病気において、全くお酒を飲まない人より、1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、その発症リスクは低く、それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、というものになっていました。ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、一部の癌はより少ないアルコール量でも、そのリスクが増加した、というデータもあります。

2023年のJAMA誌に報告されたメタ解析(※4)でも、少量の飲酒では生命予後には明確な悪影響はなく、1日23から24グラムを超えるような飲酒量において、初めて総死亡の増加傾向は見られていました。

このように、1日23グラム未満のアルコール量の健康影響は、データによっても異なる点があり、まだ結論が出ていません。ただ、少量の飲酒にリスクがないとは言えませんが、現状のデータの範囲においては、生命予後への悪影響は概ね1日1合を超える飲酒により生じると、そう考えて大きな間違いはないようです。

もう1つ飲酒に関して問題となるのは、アルコールの種類によって、その健康影響に差があるのではないか、という点です。ワインには抗酸化作用のあるポリフェノールが多く、そのためワインはそれ以外のアルコール飲料と比較して、より心血管疾患予防効果が高いことを示唆する報告があります。それは事実なのでしょうか?

ワインを飲む飲まないで心血管疾患リスクを比較

今回の検証は、ワインの摂取と心血管疾患についての、これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、システマティックレビューとメタ解析の手法で、この問題の検証を行っています。

これまでに発表された22の臨床データをまとめて解析したところ、ワインを飲む人は飲まない人と比較して、冠動脈疾患の発症リスクが24%(95%CI:0.69から0.84)、心血管疾患の発症リスクが17%(95%CI:0.70から0.98)、心血血管疾患による死亡のリスクは27%(95%CI:0.59から0.90)、それぞれ有意に低下していました。

更なるデータの検証に期待

これは摂取量はまちまちであるため、ワインの摂取量と健康影響との関連を確認出来るデータではなく、他のアルコール飲料との比較も困難です。

ただ、死亡リスクを明確に抑制している点は興味深く、今後他のアルコール飲料との比較やワインの種別による違いなど、より詳細な検証が行われることを期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36