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2018.09.26

夜食はやっぱり太るのか?を医学的に検証!【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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夜更けに小腹がすくと食べたくなってしまう夜食。太るとわかっていても、その誘惑に負けてしまう方も多いと思います。
では、夜食はどれくらい体に悪いものなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2018年のCell Metabolism誌に掲載された、「夜食べると太る」という現象のメカニズムを、ネズミの実験で検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

体内時計の仕組みとは

人間の身体にはほぼ24時間のリズムで周期的に時を刻む、体内時計があることが知られています。

個々の細胞には時計遺伝子と言われる複数の遺伝子があって、それが日内リズムに同期して時を刻んでいます。

その一方で細胞が集合した組織により構成された人体にも、体内時計の司令塔があり、脳の視交叉上核という部分にあることが分かっています。この脳の時計は太陽などの光刺激に反応して、身体が光を感知した時間で時計を合わせ、朝と認識して1日を開始するのです。

要するに身体全体としても時計があり、それを構成する個々の細胞も、それぞれの体内時計を持っている、ということになります。

この体内時計によって、人間の身体の代謝がコントロールされています。昼と夜とでは主に肝臓において、活性化される酵素に違いがあり、それによって代謝の違いが生じているのです。

夜食事をすると太るのは、体内時計のせい?

夜食事をすると太るのは、体内時計によって夜は眠るための時間と認識されているので、食事をしてもそれをエネルギーとして活用する力が弱く、結果として脂肪の蓄積が起こりやすい、というのが大きな理由となっています。

これまでの研究により、時計遺伝子が働かないようにしたネズミを作り、体内時計を壊してしまうと、そのネズミは肥満になり、脂質異常症や糖尿病などの代謝性疾患を、高率に発症することが分かっています。

それでは、代謝を正常に維持するには、体内時計は必須のものなのでしょうか?

これはまだ結論が出ていません。

時計遺伝子により誘導される肝臓の代謝酵素の多くは、別の刺激によっても誘導されることが分かっているからです。

それは空腹による刺激です。

体内時計の有無にかかわらず、夜食事をするネズミが肥満に

今回のネズミの研究では、まず体内時計が正常に働いているネズミを、総カロリーの60%が脂質という高脂肪食で飼育し、自由な時間に食べさせた場合と、夜の9から10時間は一切食事を与えない場合とを、比較しています。

その結果、自由な時間に食べさせたネズミは、高率に肥満になり糖尿病や脂質異常症を発症しましたが、夜の食事を制限したネズミは、健康で肥満にもなりませんでした。

次に時計遺伝子が働かないようにして、体内時計のないネズミを作って同じ実験をすると、矢張り夜の食事を制限した場合には、ネズミは健康で肥満にもなりませんでした。

もし体内時計が代謝をコントロールしていて、それは変えられないとすると、食事制限をしても結果は変わらない筈ですが、実際には体内時計がない状態であっても、夜間に食事を摂らない時間を充分に取ることによって、肥満や代謝障害は起こらなかったのです。

夜に絶食の時間を持つことが、健康につながる可能性も

これはまだネズミの実験ですから、人間でもこの通りの現象があるかどうかは、まだ明らかではありませんが、仮に人間でも成り立つとすると、肥満や代謝疾患の予防のために重要なことは、夜の時間帯に充分な絶食の時間を取ることで、それが正常な代謝状態を保つために、必要にして充分な習慣であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36