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2023.07.25

更年期のホットフラッシュ治療にはニトログリセリンが効く?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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更年期症状の代表的なものの一つにホットフラッシュがあります。この症状を効果的に抑える方法はあるのでしょうか?

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2023年6月5日ウェブ掲載された、ニトログリセリンの貼付薬を、更年期の症状に活用するという試みについての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ホルモン剤を使わず更年期症状のホットフラッシュを治すには

更年期症候群に伴って見られる症状のうち、ほてりやのぼせなどの、所謂ホットフラッシュと呼ばれる症状は、非常にありふれたものですが、本人にとっては非常につらいものでもあります。

ホットフラッシュのメカニズムは、まだ不明の部分もあるのですが、女性ホルモンであるエストロゲンが低下することが、そのそもそもの原因であることは間違いがなく、そのため女性ホルモンの補充療法が施行され、その軽減に効果のあることは間違いがありません。

ただ、ホルモン補充療法を継続することは、ホルモン感受性の癌のリスクや、血栓症のリスク、脳梗塞や認知症のリスクを高める、というような報告もあり、決して無害な治療ではありません。

それでは、ホルモン補充療法以外に、ホットフラッシュの安全で有効な治療はないのでしょうか?

狭心症治療に使うニトログリセリンの貼付薬が有効?

その点で最近注目されている治療法の1つが、ニトログリセリンの貼付薬の使用です。

ホットフラッシュは交感神経のバランスの乱れによる、静脈の拡張によると考えられています。その血管拡張に関わっているのが一酸化窒素(NO)です。

ニトログリセリンは狭心症などの治療薬で、それ自体は強力な血管拡張作用があり、静脈も拡張に働くのですが、持続的に投与された場合には一種の耐性が成立して、NOの分解が促進され、静脈の拡張も抑制されると考えられています。

そこで狭心症などの治療に使用される、ニトログリセリンの貼付剤(皮膚の貼り薬)を使用することで、ホットフラッシュの症状が改善するかどうかを検証する、臨床研究が施行されました。

その結果が今回公表されています。

ニトログリセリン貼付薬の有効性を調査

ホットフラッシュの症状を訴えている、閉経後の女性141名をくじ引きで2つの群に分けると、一方はニトログリセリンの貼付薬を継続的に使用し、もう一方は偽薬を使用して、12週間の経過観察を施行しています。

その結果、使用5週間の時点では、ホットフラッシュの回数や重症度は、ニトログリセリン使用群で偽薬群と比較して改善が見られましたが、12週間の治療での評価では、両者の差は有意ではありませんでした。

ホットフラッシュの回数や重症度は、偽薬群でも12週の治療後には40%を超えて低下していて、一定のプラセボ効果が確認されました。

明確な治療効果はなし

このように、ニトログリセリンの貼り薬により、短期的には症状に一定の改善が認められますが、こうした症状はかなり心理的な影響も大きなもので、長期的な明確な治療効果は確認されませんでした。

従って、現状はニトログリセリンの貼り薬は、ホットフラッシュの治療に推奨されるものではないようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36