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2020.12.30

歌い方によってどのように「飛沫」の飛び方が変わるのか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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カラオケや合唱など、大声で歌う行為が感染を拡大させると言われています。歌と会話には、どれくらい飛沫の飛び方に違いがあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、2020年10月16日ウェブ掲載された、歌の歌い方と飛沫感染リスクについての短報です。

▼石原先生のブログはこちら

歌う人からどのくらい距離をとれば安全か

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が、日本においても止まる兆しがありません。

感染リスクの高い行為さえ避けていれば、通常の生活をしていても感染は予防出来るのだ、というのは多くの専門家も指摘するところですが、それが事実であるという証明が、必ずしも明確にある訳ではありませんから、良心的な考えの人ほど「これ以上何をすればいいのか」と、混乱を感じているのが現状ではないかと思います。

一方で確実に感染リスクが高いというような行為もあり、その1つが「大声で歌を歌う」ということです。

これまでにカラオケ喫茶や合唱の練習などでのクラスターが、国内外で複数報告されています。これはいずれも集団で歌を歌うことにより、感染が拡大したことを示しています。

それでは、歌を歌っている人から、どのくらいの距離を取れば安全と言えるのでしょうか?

様々なスタイルの「歓喜の歌」で、飛沫の飛散を検証

今回の研究はドイツで行われたものですが、10人の合唱団のプロ歌手に、日本でも非常にポピュラーなベートーヴェンの「第九」の「歓喜の歌」の一節を、

・歌詞を付けて大声で歌うヴァージョン
・歌詞を付けて声を抑えて歌うヴァージョン
・歌詞のみを大声で語るヴァージョン
・歌詞のみを声を抑えて語るヴァージョン
・歌詞ではなくメロディのみを大声で歌うヴァージョン
・メロディのみを声を抑えて歌うヴァージョン

の6通りで歌い、それを高性能のカメラで撮影して、飛沫の飛散を比較検証しています。日本でも富岳でシミュレーションしているのと、基本的には同じ考え方です。

その結果、興味深いことにメロディのみの場合には、一番飛沫の拡散は少なく、大声でも中央値で62センチ、声を抑えると49センチしか、飛沫は飛びませんでした。その一方で歌詞を語るだけでも、大声では中央値で82センチ、声を抑えても74センチ飛沫は拡散していました。

歌詞を付けて歌うと最も飛沫は拡散し、特に声を抑えた時に、2メートルに近く拡散した事例も認められました。正面と比べて、左右への拡散は少なくなっていました。

こうした知見から、概ね「前方で2~2.5メートル、側方で1.5メートル以上」離れていると、ほぼ飛沫を浴びることはないと推測されました。

歌よりも言葉のほうが飛沫を拡散する場合も

プロの歌手は声を抑えても、音を遠くに飛ばすという技術を持っているので、やや特殊な面はありますが、歌よりも言葉がより飛沫を拡散するという知見は興味深く、今後の演劇や音楽の鑑賞条件と感染予防を考える上でも、重要な知見であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36