メニュー

2020.10.04

マスクの種類によって飛沫飛散防止効果はどれくらい違うのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

今や必需品となったマスク。定番の不織布マスクのみならず、最近は通気性の良い布製やウレタン素材のマスクを使う方も増えてきました。マスクの種類によって、飛沫の飛散防止効果はどれくらい違うのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Science Advances誌に2020年8月7日掲載された、マスクの飛沫拡散防止の性能を、新しい方法で検証した論文です。
これは結構もうあちこちで紹介されているものですが、多少切り口を変えて、お伝え出来ればと思います。

▼石原先生のブログはこちら

マスクの感染予防効果はどれくらい?

特に咳などの症状がなく、医療従事者でもない一般の人が、マスクを公共の場で装着するという習慣は、欧米にはないもので、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行初期には、欧米ではマスクの有効性は、否定的な見解が多く見られました。

しかし、その後流行が拡大して、有効な感染予防の決め手がない、という状態が長く続くにつれ、公共の場で一般の人がマスクをすることの、感染予防としての有効性が見直され、今では世界的に有効な感染予防法として、世界的に認知されています。

日本においても「マスク着用」というのは、感染防御策の基本として推奨され、劇場や集会、映画館などでも、マスク着用が食事中以外は義務化されています。

素材が多種多様なので、性能にも差があるはず

ただ、マスクには医療用のものからファッション的な用途のものまで、多くの種類のものが発売され、その素材も不織布と呼ばれるものから、コットン、ポリエチレン、ニットや絹など様々です。

ジョギングなどの際には、バンダナを口や鼻の周りに巻いたり、ネックゲーターと呼ばれるフリース素材のもので、口元を覆ったりしていて、これもマスクに準じると見做されています。

N95マスクは最も高性能の医療マスクですが、これを正しく装着すると、正直相当の息苦しさがあります。それに準じるのがサージカルマスクで、これは不織布を3枚重ねて作られています。

こうした医療用のマスクと、夏にも快適とされる通気性の良い布製のファッションマスクが、とても同じ性能とは思えない、というのは誰でも思うところです。それでは、実際にはこうしたマスクの種類により、その性能にはどのくらいの違いがあるのでしょうか?

飛沫粒子を防ぐマスク、通過させてしまうマスクはどれか?

マスクの性能には色々な指標があります。最も単純なものは、マスクの構造がどのくらいの飛沫粒子を、通過させるのか、ということです。

医療関係者が通常装着しているサージカルマスクは、5μm(5000nm)程度の大きさの粒子を、濾過して捕捉する機能を持っています。

N95マスクと称されるより高性能のマスクは、0.1から0.3μm(100から300nm)の粒子を、95%以上濾過して捕捉する性能を持っています。

ただ、こうした性能は敢くまで理論的なもので、実際にこのマスクを人間が装着して、それで声を出したり咳をしたりする時に、マスクをしない場合と比較して、どのくらい周辺への飛沫を阻止しているのか、ということを証明しているものではありません。

マスクの種類ごとに感染予防効果を測定

今回ご紹介する論文は、マスクの実際の感染予防効果を、新しい測定法により解析したものです。

その方法というのは、実際に被験者が色々なマスクをして、レーザーが照射された箱に向かって声を出し、レーザーの膜に移った飛沫粒子を、スマホのカメラで撮影して計測する、というものです。

この方法は文献の著者らによれば、実際の感染防止効果を反映している点と、スマホカメラを使用して安価に出来る、と言う点が特徴であるようです。

従って、この論文の肝は、どちらかと言えば新しい測定法という部分にあって、マスクの性能比較は、そのおまけのような意味合いです。

それではまずこちらをご覧下さい。

今回使用比較されているマスクの画像の一部です。

1は通常のサージカルマスクで、色つきですが2と14はN95マスクです。
5や8はコットン主体のファッション性の高いマスク。
11はネックゲーターです。

こうしたマスクを装着して、同じ台詞を話して、飛沫の飛び具合を比較します。

それではこちらをご覧下さい。

これは縦軸がカウントされた飛沫量を示し、横軸はマスクの種類を示しています。10回同じ実験を繰り返して、それをグラフ化しているのです。
一部に色が付いているのは、その4種類の比較はより詳細に行っているからです。

中抜きの大きな丸になっているのは、4人の別の人を使って試験を繰り返した結果を、同じマスクで図示したものです。人が変わるとかなり結果に違いが出てしまうのですね。

この方法の限界を示しているようにも思いますし、同じ言葉を喋っても、飛沫の飛び方には非常に個人差が大きい、ということを示しているようにも思います。

むしろ飛沫を拡散させるタイプのものも

図の右から2番目の緑の結果が、マスクをしていない場合です。そして、一番左がN95マスクでその隣の青がサージカルマスクです。N95マスクは飛沫量を0.1%未満に抑制していて、サージカルマスクは幅はあっても、5%未満には抑制しています。

一方でコットンなどのマスクは、20%から30%は飛沫の拡散を許しています。バンダナは50%近く飛沫の拡散を許していて、ネックゲーターは、むしろマスクをしない状態より、飛沫を拡散させています。

これはネックゲーターの使用により大きな飛沫が小さくなり、より拡散が多くなったと想定されています。

装着法などの違いで効果に大きな差が

次にこちらをご覧下さい。

これは時間経過と飛沫量を、先刻のグラフで色の付いていた4種で比較したものです。2つの異なるグラフを重ねているので、ちょっと分かりにくいのですが、言葉を発する毎に飛沫が噴出するように飛んでいることが分かります。

このように、同じマスクでも装着の仕方やその種類により、その飛沫拡散防止効果には大きな差があり、装着の方法によっては、却って飛沫の拡散を増加させてしまう、という可能性もあります。

必需品のマスクだからこそ、もっと詳細な検証を

こうした「ウィズ・コロナ」と言うべき状態が今後も続くようであれば、マスクの種類や装着法についても、もう少し詳細な検証が必要になるのではないでしょうか?

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36