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2023.05.16

スタチン使用患者の心血管疾患の予防の有効性【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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近年、心疾患など動脈硬化性の疾患を招く原因のひとつとされる高コレステロール血症ですが、健康診断等で指摘され、抗コレステロール薬を服用されている方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、Lancet誌に2023年3月6日ウェブ掲載された、スタチン治療中の患者における心血管疾患のリスク予測因子についての論文です。

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スタチンの血管疾患への有効性

心筋梗塞や脳卒中は、いずれも動脈硬化の進行に伴って発症しますが、高コレステロール血症と炎症反応の上昇は、いずれもそのリスクを反映すると考えられています。

スタチンという薬は、コレステロール合成酵素の阻害剤で、血液中のコレステロールを強力に低下させる作用を持った薬ですが、それ以外に抗炎症作用も併せ持ち、そのために動脈硬化性疾患の予防薬として、その有効性が評価されています。

ただ、スタチンを充分量使用して治療を行っても、脳卒中や心筋梗塞のリスクは一定レベルは残存しており、そのためにどのような治療を追加すべきかが、臨床的には非常に重要な未解決の問題となっています。

心血管リスクの残存を分析

今回の検証はスタチンを使用した、これまでの複数の臨床データをまとめて解析することにより、スタチン治療患者における、残存心血管疾患リスクの分析を行っています。

これまでの複数の臨床試験に含まれる、トータル31245名のデータをまとめて解析したところ、スタチンを充分量使用している患者においても、高感度CRPという指標で計測された炎症所見は、その後の心血管疾患リスクと有意な関連を持っていました。

その一方でLDLコレステロールの検査値と、その後の心血管疾患リスクとの間には、明確な関連は認められませんでした。

心血管疾患の予防には炎症反応低下が必要

つまり、スタチンを充分量使用している患者においては、それ以上コレステロールを低下させても、心血管疾患の残存リスクの低下には結びつかず、スタチン以外の治療により、炎症反応の低下に結び付くような治療を追加することが、心血管疾患の更なる抑制のためには、重要であると考えられたのです。

こうした知見が、今後の有効な予防法の確立に結び付くことを期待したいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36