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2021.06.10

ダイエット後のリバウンドを防ぐ科学的な方法とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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短期間で体重を落とすダイエットを成功することは出来ても、その体重を長期間維持するのは至難の業。リバウンドを予防するために効果的な方法はあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に2021年5月6日掲載された、肥満のダイエット後のリバウンドを予防するために、薬と運動療法を併用するという、興味深い臨床試験結果についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ダイエット後のリバウンドを防ぐことは出来るのか?

肥満は世界中で最も大きな健康問題の1つです。

その解消のために、多くのダイエット法(体重減少法)が開発され利用されていますが、食べる量を減らして運動する、ということ以外に、科学的に有効性の確認されているものはあまりありません。

たとえば入院して1000キロカロリーを下回るような低カロリーのダイエットを、栄養バランスに留意しながら継続し、適度な運動療法と組み合わせれば間違いなく短期的には体重は減少します。しかし、退院すれば高率にリバウンドが起こり、体重は短期間で増加に転じることが多いのが実際です。

これは民間の多くのダイエット法にも一致する現象で、商売としてのダイエットは、1か月で何キロ減らします、というようなことは言っても、それを1年維持します、というような言い方は決してしません。それは本当に難しいのはリバウンドの阻止であって、それを約束したら商売にはならない、ということを知っているからです。

それでは、ダイエット(体重減少)後のリバウンド予防に何か有効な科学的方法はないのでしょうか?

肥満症の治療薬を使ってリバウンド予防を検証

リラグルチド(商品名ビクトーザ)は、GLP-1アナログと呼ばれる糖尿病治療の注射薬ですが、主に食欲を抑えるような効果により体重減少をサポートすることが確認されていて、海外では単独でも肥満症の治療薬として承認されている国もあります。

それでは、このリラグルチドには、ダイエット後のリバウンドを予防するような作用はあるのでしょうか?

今回の臨床研究はデンマークにおいて、BMIが32から43と肥満があって糖尿病はない、トータル195名にまず1日800キロカロリーという、超低カロリーの食事療法を導入し、8週間の治療を継続します。治療終了後には平均で13.1キロの体重減少が達成されました。

この時点で対象者をくじ引きで4つの群に分けると、コントロール群は通常の生活指導と偽の注射とし、運動群は専門のインストラクターによる運動療法を継続して偽の注射を施行、リラグルチド群は通常の生活指導に加えて、リラグルチドを1日3.0㎎皮下注射し、併用群はリラグルチドの注射とインストラクターによる運動療法を併用して、1年間の経過観察を施行しています。

このリラグルチドの3.0mgというのは、日本で認められている糖尿病での使用量より、遙かに高用量です。

運動とリラグルチドを併用すると非常に効果的

その結果はこちらをご覧下さい。

一番上のグレイのラインが、何もしなかったコントロール群ですが、体重は平均で6キロくらいリバウンドしています。

それに比べて緑のラインの運動群は、2キロくらいのリバウンドに留まっています。コントロールと比較した差は-4.1キロ(95%CI:-7.8~-0.4)です。

次に青のラインのリラグルチド群は有意なリバウンドはしておらず、コントロールと比較した差は-6.8キロ(95%CI:-10.4~-3.1)で、最後に赤のラインの併用群では、明確に開始時より体重減少が認められ、開始時より平均で3.4キロ減少し、コントロールと比較した差は-9.5キロ(95%CI:-13.1~-5.9)となっていました。

今後の肥満治療の選択肢に

このように、運動単独やリラグルチド単独でも、リバウンドの予防効果は認められますが、両者を併用することによる効果は顕著で、今後こうした2段階の治療、すなわちまず低カロリーで体重減少を短期間で達成し、それからリバウンド予防の治療にシフトする、という方法は、肥満症の治療として非常に有効な治療の選択肢となりそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36