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2022.05.05

妊娠中の高血圧、積極的に治療しても大丈夫?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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妊娠中の高血圧は母子ともに健康を損なう危険性がありますが、血圧を下げる降圧治療を行いすぎると胎児への影響があるとも言われています。実際はどうなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2022年4月2日掲載された、妊娠中の高血圧の治療目標値についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

妊娠中の降圧治療は胎児に影響がある?

高血圧の治療目標値は、最近ではより低くなる傾向にあります。

ただ、幾つかの例外はあり、そのうちの1つは妊娠中の場合です。通常妊娠中の高血圧で積極的治療の適応となるのは、血圧が収縮期160mmHg以上もしくは拡張期100mmHg以上の場合です。

それより低い目標値で降圧治療を施行すると、胎児への血流量が減り、それが通常の月齢の標準より小さな、SGA児(在胎不当過小児)の原因になるとする知見があるからです。

ただ、そうしたことはないとする報告もあり、まだ結論には至っていません。

妊娠中の降圧剤治療の健康リスクを調査

そこで今回の研究はアメリカの複数施設において、妊娠20週以前に収縮期血圧が140mmHg以上か、拡張期血圧が90mmHg以上のどちらか、もしくは両方を2回以上確認した、比較的軽症の高血圧症の妊婦トータル2408名をくじ引きで2つの群に分けました。

一方は140/90未満にすることを目標として、降圧剤を使用する積極的治療を行い、もう一方は収縮期が160以上もしくは拡張期が105以上になるまで、薬物治療は行わずに様子をみる通常治療を施行して、その後の妊娠経過と胎児の予後を比較しています。

使用された降圧剤は、αβブロッカーのラベタゾールと、カルシウム拮抗薬のニフェジピンERです。

その結果、早産や胎児死亡、重度の妊娠高血圧腎症、胎盤早期剥離を併せたリスクは、通常降圧目標で37.0%に対して、積極治療群では30.2%で、積極的降圧治療によりそのリスクは18%(95%CI:0.74から0.92)有意に低下していました。

一方で危惧されたSGA児のリスクには、両群で有意な差は認められませんでした。

合併症毎のリスクをみると、重度の妊娠高血圧腎症のリスクは21%(95%CI:0.69から0.89)、早産のリスクは13%(95%CI:0.77から0.99)、それぞれ有意に低下していました。

血圧コントロールで母子ともに予後改善

このように今回の検証においては、通常の血圧コントロールに対して、妊娠中に140/90 未満を目指して血圧コントロールを施行すると、母体と胎児の予後の改善に繋がる可能性が高いと考えられました。

今後ガイドラインなどにも、大きな影響を与える知見であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36