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2023.02.14

新型コロナウイルス後遺症、1年後はどうなっている?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナ感染後に、咳や味覚障害などの後遺症に悩まされるケースが多々あることはよく知られています。どのような症状がどの程度続くのでしょうか。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2023年1月11日ウェブ掲載された、新型コロナ後遺症の1年後の経過を検証した、イスラエルの疫学データです。

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コロナ後遺症の特長

COVID-19後遺症については、これまでも何度も記事にしています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、体調不良が長期間持続することは以前より指摘されていて、その呼び名も定義も、必ずしも統一されていませんが、概ね感染に罹患後3か月以上持続する症状で、それにより日常生活や仕事などの社会生活に、一定の制限が必要となったり困難が生じる場合に、COVID-19後遺症や新型コロナ後遺症、COVID-19罹患後症候群やロングCOVID、などの名称が使用されています。

ちなみに今回の論文ではロングCOVIDという表記が使われています。

その症状も数多く報告されていますが、報告の多いものでは大きく3つに分かれるというのが、今の一般的な考え方です。

その3つというのは、
①咳や痰がらみ、息切れなどの呼吸器症状
②感情の変化や身体の痛みなどを伴う、全身の倦怠感
③物忘れや集中力低下などの認知機能障害
の3種類です。

他に味覚嗅覚障害がありますが、これは持続することはあるものの、他のCOVID-19後遺症とは別に考えることが通常です。

COVID-19後遺症の臨床像は、このように明らかになりつつあると言えるのですが、その長期予後については、まだまだデータが少ないのが実際です。

どんな症状が持続するか

今回の疫学データはイスラエルのもので、特徴としてはRT-PCR検査で診断された事例のみを扱い、入院を要さず回復した軽症の事例において、COVID-19発症後1年までの時点での、COVID-19後遺症の症状持続の有無を検証しているものです。

COVID-19後遺症の個々の症状について、短期(発症30から180日)と長期(発症180から360日)に分けて検証したところ、味覚嗅覚障害は早期で非感染の4.59倍(95%CI:3.63から5.80)、人口1万人当たり19.6人(95%I:16.9から22.4)増加していましたが、6か月以降の長期では、非感染の2.96倍(95%CI:2.29から3.82)、人口1万人当たり11.0人(95%CI:8.5から13.6)と短期と比較して改善していました。

認知機能低下の症状については、短期で非感染の1.85倍(95%CI:1.58から2.17)、人口1万人当たり12.8人(95%CI:9.6から16.1)の増加が見られ、長期では非感染の1.69倍(95%CI:1.45から1.96)、人口1万人当たり13.3人(95%CI:9.4から17.3)と大きな変化は認められませんでした。

呼吸困難の症状については、短期で非感染の1.79倍(95%CI:1.68から1.90)、人口1万人当たり85.7人(95%CI:76.9から94.5)の増加が見られ、長期では非感染の1.30倍(95%CI:1.22から1.38)、人口1万人当たり35.4人(95%CI:26.3から44.6)まで改善が認められていました。

動悸の症状については、短期で非感染の1.49倍(95%CI:1.35から1.64)、人口1万人当たり22.1人(95%CI:16.8から27.4)の増加が見られ、長期では非感染の1.16倍(95%CI:1.05から1.27)、人口1万人当たり8.3人(95%CI:2.4から14.1)まで、これは明確に改善が認められていました。

筋脱力の症状については、短期で非感染の1.78倍(95%CI:1.69から1.88)、人口1万人当たり85.7人(95%CI:76.9から94.5)の増加が見られ、長期では非感染の1.30倍(95%CI:1.22から1.37)、人口1万人当たり50.2人(95%CI:39.4から61.1)まで改善が認められていました。

扁桃炎やめまいのリスクも増加

それ以外に溶連菌による扁桃炎のリスク、眩暈のリスクについても、リスクとしてより低いレベルでしたが、有意な長期に及ぶ増加が認められました。一方で脱毛、胸部痛、咳、筋肉痛、呼吸器症状については、短期には有意にリスクの増加が認められたものの、6か月を超える長期ではそのリスク増加は有意ではありませんでした。

こうしたCOVID-19後遺症の症状には性差はなく、成人と比較して小児には少なく、より短期間で消失する傾向が認められました。

ワクチン接種者は非接種者と比較して、呼吸困難の症状の持続は少なく、他のCOVID-19後遺症の症状については、接種者と明確な差は認められませんでした。

今回のデータはデルタ株の時期までのものですがその時点までの変異株の種別と、このcovid-19後遺症の症状との間には、明確な差は認められませんでした。

今後、有効な方策ができることに期待

このように軽症の新型コロナウイルス感染症罹患後の、COVID-19後遺症の症状の頻度は、概ね低いレベルのもので、多くの症状は1年以内には改善する性質のものです。

その一方で、1年を超えて持続している事例があることもまた事実で、今後その有効な方策についての研究に期待をしたいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36