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2021.10.18

後遺症で苦しむ可能性も。新型コロナ感染後、肺機能に影響がでる可能性は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナに感染すると、数ヵ月経っても息苦しいなどの後遺症に悩まされる場合があるのだとか。実際どれくらい肺機能に影響はあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、European Respiratory Journal誌に、2021年9月16日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス肺炎の発症4か月後の肺機能を解析した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

コロナ感染が原因の肺炎がもたらす影響とは

新型コロナウイルス感染症は、その流行初期の段階では、新型コロナウイルス肺炎と呼ばれていました。つまり、重症のウイルス肺炎を起こすことが、最大の特徴であると考えられていたのです。

その後肺炎以外に、全身の血管病変など、多くの病態が生じうることが明らかになり、そうした呼び方自体はあまり使用されなくなりましたが、重症肺炎が患者に最も深刻な影響を与える、という事実には違いはありません。

新型コロナウイルス感染症は、また治癒後にも後遺症と呼ばれるような、多くの症状が持続することが知られています。この後遺症も多岐に渡りますが、その中には肺炎による肺の器質性変化が、その原因となっていることが、少なからず認められています。

しかし、実際には新型コロナウイルスに起因する肺炎が、その後中長期的にどのような影響を残すのかについては、少数例の検証が行われているに過ぎません。

感染後4ヵ月の肺機能を調査

今回の検証はイタリアにおいて、379名の新型コロナウイルス感染症の患者を、その診断から4か月という時点で、中期的な肺機能の予後を評価したものです。

379名の患者中、222名が肺炎を罹患し、そのうちの60.8%に当たる135名が酸素療法を必要としていました。診断から4か月の時点で、肺炎を発症した患者は発症しなかった患者と比較して、安静時の動脈血酸素飽和度が有意に低く、歩行試験時の酸素飽和度も、肺活量も有意な低下が認められていました。

このように新型コロナウイルス感染症に罹患して、肺炎を発症した患者では発症から4か月が経過した段階においても、肺機能の低下が一定程度は残存していることが確認されました。

これがどの程度長期持続するものなのか、リハビリテーションを含めどのような対応を取ればこうした低下を食い止められるのか、今後より詳細な検証の結果を待ちたいと思います。

快復後も定期的に肺機能検査を

東京のような日本の流行地域においては、現状酸素の低下が認められるような患者でも、肺炎の診断は自宅療養であれば明確には施行されず、その予後についてもあまり科学的な検証や、治療の評価が行われているとは思えません。

中長期的にも肺炎患者では肺に後遺症が残るものだとすれば、たとえ症状が軽症で自宅療養で改善したとしても、CTなどによる肺炎像の確認や、肺機能検査の経過観察などは必須であると思います。

重症事例を救命することと、隔離により感染拡大を防ぐことが、医療の2本柱として機能しているのが現状ですが、今後はこの病気の性質をより把握した上で、中等症から軽症事例の評価や経過観察のあり方など、科学的検証の元に、しっかりとした指針が作成されるべき時期に、来ているのではないでしょうか?

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36