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2022.02.03

「善玉」と呼ばれるHDLコレステロール、健康にいいのか悪いのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生  

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「善玉」という呼び名が付いているHDLコレステロール。値が高いほど健康というイメージもありますが、実際はどうなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the American Journal of Cardiology誌に、2022年1月14日ウェブ掲載された、血液のHDLコレステロール濃度と、心血管疾患による死亡リスクとの関連を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

HDLコレステロールは本当に「善玉」か

血液のHDLコレステロールは、組織からコレステロールを引きはがすような役割があり、血液中のHDLコレステロール濃度が低いことが心筋梗塞などの発症リスクを増加させることは、多くの精度の高い疫学データで確認された事実です。

HDLコレステロールが、「善玉コレステロール」のような名称で、呼ばれているのはそのためです。

しかし、HDLコレステロールを増加させるような治療は、これまでに成功したものはありません。また、最近の住民データなどの解析では、高HDL血症が死亡リスクの増加に繋がっている、ということを示唆する結果が複数報告されています。

HDLコレステロールには性差があり、女性は女性ホルモンの作用などにより、男性より高いHDLコレステロール濃度を示す、というデータがあります。

HDLコレステロールが遺伝的に非常に高値であることが「長寿の家系」として報告されていますが、遺伝子の関与も実際には単一のものではなく、その心血管疾患予防効果にも差があることも指摘されています。

このように、HDLコレステロールが低いことが、心血管疾患のリスクであることは間違いがありませんが、高いことがそのリスクを常に下げるものであるのかについては、それほど明確なデータがある、という訳ではないのです。

HDLコレステロール値と死亡リスク等の関係を調査

そこで今回の研究では、これまでにも何度もご紹介している、イギリスのUKバイオバンクという、遺伝情報と臨床情報を集積した大規模医療データを活用して、この問題の検証を行なっています。

登録の時点で虚血性心疾患のない、トータル415416名を中間値で9年間観察したところ、心血管疾患リスク因子や年齢性別などで補正した結果として、HDLコレステロール濃度が80mg/dLを超えると、40から60mg/dLの基準値と比較して、総死亡のリスクが1.11倍(95%CI:1.03から1.20)、心血管疾患による死亡リスクが1.24倍(95%CI:1.05から1.46)と、それぞれ有意に増加していました。

これを男女に分けて検証したところ、男性では同様の解析において、HDLコレステロール濃度が80mg/dLを超えると、総死亡のリスクが1.79倍(95%CI:1.59から2.02)、心血管疾患による死亡リスクが1.92倍(95%CI:1.52から2.42)、よりそのリスクは高くなっていましたが、女性では総死亡のリスクが0.97倍(95%CI:0.88から1.06)、心血管疾患による死亡リスクが1.04倍(95%CI:0.83から1.31)、とリスクの有意な増加は認められませんでした。

ちなみに、HDLコレステロールが30mg/dL以下では、総死亡のリスクは2.40倍(95%CI:2.15から2.68)、心血管疾患による死亡リスクが3.09倍(95%CI:2.54から3.75)と、明らかに強いリスク増加が認められ、男女比では女性がより高くなっていました。

HDLコレステロールが低いことが問題であるのは間違いがなく、議論の対象はHDLコレステロールが高い場合なのです。

HDLコレステロールが高値なだけでは健康とはいえない

今回の検証では、HDLコレステロールが80mg/dL以上の男性では、40から60mg/dLと比較して総死亡と心血管疾患による死亡のいずれもが、リスクの増加を示していました。

どうやらHDLコレステロールの高値は、それだけで良いというような所見ではなく、性差や基礎疾患の有無などとも併せて、トータルに検証するべき所見であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36