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2020.02.26

コレステロール摂取量と心血管疾患リスクの関係【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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コレステロールがたくさん含まれる食事は身体に悪い、というイメージの方も多いと思います。コレステロールはどれくらい病気のリスクに関係しているのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のCirculation誌に掲載された、食事のコレステロールの摂取量と心血管疾患リスクについての、アメリカ心臓病協会による提言です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

コレステロールの摂り過ぎは身体に悪い?

コレステロールの摂取量を減らすことは、長く心血管疾患予防のための栄養指導の柱でした。

概ね1日コレステロールの食事からの摂取量が、300ミリグラムを超えないようにすることが、健康のためには重要であるとされてきました。

ところが、2013年以降のアメリカ心臓協会とアメリカ心臓学会によるガイドライン(AHA/ACCガイドライン)においては、コレステロールの摂取目標値を設定せず(※2)、2015年から2010年アメリカ政府機関が作成する、アメリカ人のための食生活指針(DGA)においても、同様の方針が踏襲されました。(※3)

健康のためにコレステロールを制限するという考え方は、かなり明確に否定されたのです。

その説明は現行の臨床データや疫学データにおいて、コレステロールの摂取量そのものと、心血管疾患のリスクとの間に、明確な関連があるという根拠が認められなかったから、と説明されています。

コレステロールを制限する意義は薄いという研究結果

今回の論文では、その根拠となったデータが解説されています。

この考え方はちょっと誤解を招くところがあるのですが、コレステロールは幾ら沢山摂っても良い、ということではなく、現代のアメリカ人一般への健康指導として、コレステロールを制限するということの意義は薄い、ということを示しているのです。

その点をもう少し細かく説明してみます。

まず、アメリカにおける成人のコレステロール摂取量は、平均で1日293ミリグラム(95%CI: 284から302)で、ほぼ摂取上限量とされる300ミリグラムを、クリアしていることが分かります。
主なコレステロールの摂取源は、肉類(シーフードを含む)、卵、穀類、乳製品となっていて、このうち卵の摂取量についてはかなりのばらつきがあり、コレステロールの摂取量が多い人では、卵の摂取量がそこに大きく影響していることが示唆されています。

多くの観察研究と呼ばれる手法による疫学データでは、コレステロールの摂取量と心血管疾患のリスクとの間には、明確な関連が認められていません。
介入試験と呼ばれる厳密な手法を用いた臨床試験のデータを解析すると、確かにコレステロールの摂取量と心血管疾患リスクとの間に、一定の関連が認められますが、501から1415ミリグラムという、かなり極端に多くのコレステロールを摂取していて、通常の平均的な食生活のレベルにおいては、こうしたリスクの増加は問題にはならないと思われます。

卵を摂り過ぎると心血管疾患リスクが増加するという研究結果も

ただ、今年発表されたアメリカのコホート研究の結果を、まとめて解析したメタ解析の論文では、1日半個の卵を余計に食べると、心血管疾患のリスクは6%有意に増加する、という結果になっていました。(※4)

このように、臨床データは必ずしも一致していないのですが、少なくとも通常のコレステロールの摂取量の範囲においては、明かな心血管疾患のリスクの増加はない、というのがこれまでの結論であるようです。

卵については、1日1個までの摂取については、ほぼノーリスクと考えて良いようですが、それを超える摂取については、問題ないという報告がある一方、心不全などのリスクが増加する、という報告もあるので注意が必要です。

また、コレステロールを含む食品には、健康リスクを上げることがほぼ間違いない、飽和脂肪酸が多く含まれているものが多く、それがコレステロールの健康リスクとされるものの、実体ではないかという見解もあります。

栄養は様々な食材から摂ることが大切

いずれにしても、コレステロールは沢山摂っても問題ない、ということではなく、卵も1日2個以上摂れば一定のリスクは想定されるのですが、殆どの方にとっては意識するべきはコレステロールの量ではなく、ナッツや青味魚を多く摂るなど、他の脂質とのバランスを考えることが、コレステロールのことを気にする以上に、大切なことであるのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36