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2022.12.08

飲酒量を変えると、がんのリスクはどう変わる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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多量の飲酒が身体に悪いのは周知の事実ですが、実際に飲酒の量とがんのリスクには相関関係があるのでしょうか?

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2022年8月24日ウェブ掲載された、飲酒量の変化が癌の発症リスクに与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

飲酒がどれほどがんの発症に関係するのか

多量の飲酒習慣ががんのリスクであることは、多くの疫学データにより実証された事実です。特に咽頭、喉頭がん、食道がん、虫垂がんを除く大腸がん、肝細胞がん、女性の乳がんは、明確に飲酒量との関連がある癌として知られています。

アメリカの疫学データによれば、修正可能ながんのリスクとして、喫煙、肥満に次いでその影響が大きいのが、飲酒習慣であるとされています。

それでは、飲酒の習慣のある人がそれを止めたり、飲酒量を減らすことで、その後のがんのリスクは低下するのでしょうか?逆に飲酒量が増えることにより、がんの発症リスクも増加するのでしょうか?

こうした疑問に対する精度の高いデータは、実際にはあまり存在していません。

飲酒量とがんの発症リスクの関係を調査

今回の疫学データは韓国においてその点を検証したもので、平均年齢53.6歳の一般住民4513746名を、6.4年観察した大規模なものです。

観察期間中のがんの罹患率は、年間1000人当たり7.7件でした。

アルコール量を1日15グラム未満の少量と、1日15から29.9グラムまでの中等量、1日30グラム以上のヘビードリンカーに分類して、飲酒量の変化とがんリスクを比較してみると、いずれの飲酒量の群でも、その量が経過中に増加すると、がんのリスクはそれによって増加する傾向を示していました。

アルコール関連のがんについてみると、飲酒習慣のない人が少量の飲酒習慣に変化した場合には3%(95%CI:1.00から1.06)、中等量の飲酒習慣に変化した場合には10%(95%CI:1.02から1.18)、ヘビードリンカーになった場合には34%(95%CI:1.23から1.45)、その後のがんリスクは増加していました。

少量の飲酒者が禁酒をすると、そのまま飲酒していた場合と比較して、全がんの発症リスクは4%(95%CI:0.92から0.99)、有意に低下しました。

一方で中等量の飲酒者が禁酒すると、全癌の発症リスクは7%(95%CI:1.03から1.12)、ヘビードリンカーが禁酒すると、全がんの発症リスクは7%(95%CI:1.02から1.12)、いずれも一時的には有意に増加しました。しかし、その後の経過をみると、そのリスクは有意なものではなくなっていました。

ヘビードリンカーのままであった場合と比較して、ヘビードリンカーが中等量まで節酒すると、アルコール関連癌のリスクが9%(95%CI:0.86から0.97)、全がんの発症リスクも4%(95%CI:0.92から0.99)有意に低下し、ヘビードリンカーが少量まで節酒すると、アルコール関連癌のリスクが8%(95%CI:0.86から0.99)、全がんの発症リスクも8%(95%CI:0.89から0.96)、こちらも有意に低下していました。

このように、アルコールはアルコール関連のがんのみならず、全がんの発症リスクとも一定の関連があり、節酒や禁酒はそのリスクを低下させるために、一定の有効性があることは、ほぼ明らかだと言って良いと思います。

ただ、禁酒で一時的にがんリスクが増加するなど、アルコールの健康への影響は複雑で、単純に良い悪いと言い切れない部分もあります。

飲酒量はなるべく少ない方がよさそう

いずれにしても他に肝障害など健康影響がない場合にも、飲酒量はなるべく少なくすることが、がんの予防のためにも有効であるというのが、現状の一般的な科学的知見であると言って良く、日本では1日20グラム(日本酒で1合程度)までの飲酒は、健康上大きな問題がないとされていますが、世界的トレンドとしては、適正な飲酒量はより低く設定されている、という点も、理解はしておく必要があると思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36