メニュー

2022.09.07

出世魚で縁起良し!島根県「スズキの奉書焼き」【ニッポン地元メシ#28】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

日本海に面した島根県。
世界遺産である石見銀山をはじめとして松江城や宍道湖(しんじこ)、隠岐(おき)諸島など観光スポットも多い県のひとつです。

旧暦の10月は全国的に「神無月」と言いますが、島根県では「神在月」と呼ばれるのをご存知でしょうか?
これは全国の八百万の神たちが出雲の国(島根県)に集まるため、島根県を除く全国では「神様が不在になる」という意味からきています。

そんな出雲の国が神の国と言われる所以は、神々をおまつりする古い神社が至る処に鎮座しているから。そして、その中心が大国主大神様(だいこくさま)をおまつりする「出雲大社」です。
出雲大社は縁結びスポットとして非常に人気の観光地にもなっています。

今回は島根県でも古くから食されているスズキを使った料理「スズキの奉書焼き」を紹介します。

日本百景にも選ばれた宍道湖の恵み

島根県の郷土料理には海産物を使った料理が多くありますが、それは島根県の地形が大きく関わっています。

日本海に面している島根県には、北東部に「宍道湖」があります。
宍道湖はおよそ1万年前に形成されたと言われており、その面積は日本国内で7番目の広さと位置付けられています。
宍道湖は海水と淡水が混ざり合う汽水湖で、その独自の環境が郷土の味を育んだともいわれています。

そんな宍道湖を代表する魚介類は「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」と呼ばれます。
ヤマトシジミやうなぎ、シラウオなどと並んで宍道湖七珍に含まれるのが、「スズキ」です。

スズキは成長とともに名前が変わる出世魚です。
そのスズキを使って作られる松江市の郷土料理が「スズキの奉書焼き」です。

スズキの奉書焼きとは?

写真提供:島根県観光写真ギャラリー

写真提供:島根県観光写真ギャラリー

スズキの奉書焼きはその名の通り、スズキという魚を奉書で包んで蒸し焼きにした料理です。
奉書とは日本の伝統的な和紙の一種。弔辞を書いたり香典を包んだりする際に用いる紙で、楮(こうぞ)を原料としており少し厚みがあるのが特徴です。

江戸時代に、漁師が焚火の灰で蒸し焼きにしたスズキを松江藩七代藩主の松平治郷が所望。しかし、灰がついたままの魚ではお粗末だということで奉書に包んで蒸し焼きにしたものを差し上げた、というのがはじまりと言われています。

スズキの奉書焼きは現在でも祝宴や会合などハレの日に食べられることがあります。

作り方はシンプル

作り方はとてもシンプルです。

まずスズキのワタを取るのですが、腹を切って取り出すのではなく、エラの隙間からワタをとる「ツボ抜き」という方法を用います。
そして金串で身をつきながら塩をふりかけ、しばらく置きます。
その後、水と酒に濡らした奉書で包み、蒸し焼きにします。

食べるときはすだちなどの柑橘系のお酢と醤油などを添えていただきます。
塩や酒といったシンプルな調味料のみで魚の臭みを取り、うま味を引き出します。そして蒸し焼きにすることで、鮮度の良いスズキのうま味をしっかりと閉じ込めているのではないでしょうか。

スズキの栄養は?

スズキはスズキ目・スズキ亜目・スズキ科に属する白身魚です。

北海道から九州まで幅広く獲れ、釣りをする方であれば「シーバス」の名でお馴染みですが、一般のご家庭で食べることは少ないかもしれません。
ちなみにお馴染みのタイも、スズキ目・スズキ亜目タイ科ということでスズキの仲間なのです。

スズキは癖がなくあっさりとした淡白な風味が特徴です。宍道湖でとれるスズキは秋~初冬の旬を迎える頃に、脂がのって食べ頃とされています。

魚の栄養というと「タンパク質」が有名ですが、実はカリウムも豊富。
カリウムは余分なナトリウムを排出するときに必要な栄養素で、身体の中ではバランサーのような役割を持っています。
ナトリウムは私たちの身体にとって非常に重要な役割を担っているものの、摂りすぎるとむくみや高血圧などの原因となりますので、摂りすぎには注意が必要なミネラルのひとつです。

カリウムが多い食材といえば、アボカドやモロヘイヤなど青果に多い印象が強いですが、実は肉や魚介類にも多く含まれています。
スズキの可食部100gあたりのカリウム量はバナナ(生の果物の中で上位)とほぼ同じくらいです。

出世魚で縁起よし!

スズキにはタンパク質やカリウムといった栄養素を含むだけでなく、出世魚ということでとても縁起が良いことから、心身ともに元気になれそうな料理ですね。

スズキの奉書焼きはハレの日にいただく料理ということで、家庭料理というよりは、飲食店や料亭などにお願いして作ってもらうという郷土料理。
ですがクセがなく食べやすい魚でもあることから、老若男女問わずにいただけるという点も嬉しいですね。

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/suzukinohoshoyaki_shimane.html)

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

記事画像

管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

この記事に関連するキーワード