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2020.01.29

中国武漢市発生 新型コロナウイルス肺炎の特徴と対応(2020年1月26日)【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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連日ニュースで報道されている中国武漢市の新型コロナウイルス肺炎。
1月28日には日本人初の感染者が確認されたため、感染のリスクに戦々恐々としている方も多いのではないでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2020年1月24日のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、中国武漢市で発生した新型コロナウイルス肺炎の、原因ウイルスを解析した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナウイルスとは?

2019年の12月から中国武漢市において、原因不明の肺炎の事例が多発し、日本でも報告事例が出るなどして、大きな問題となっています。
それに関連して海外の主だった医学誌にも、この新型コロナウイルス感染症についての解説や論文が掲載されています。

上記のNew England…の論文では、患者の気道上皮細胞より原因のコロナウイルスを単離し、その遺伝子の解析を行っています。

コロナウイルスは、エンベロープという周辺構造を持つRNAウイルスで、人間を含む哺乳類、鳥などに感染し、229E、OC43、NL63、HKU1という4つのコロナウイルスが、人間に感染して上気道炎症状を起こす、所謂「風邪症候群」の原因ウイルスとして知られていました。

それが2002年から2003年に、元々はコウモリを宿主としていたコロナウイルスが、人間に感染して変異し、重症急性呼吸器症候群(SARS)として中国で流行し、大きな問題となりました。これがSARS-CoVという5番目のコロナウイルスです。

更に2012年に中東において、矢張り元々はコウモリを宿主としていたコロナウイルスが、ラクダを介して人間に感染して変異し、中東呼吸器症候群(MERS)として流行し、こちらも大きな問題となりました。これがMERS-CoVという6番目に見付かったコロナウイルスです。

新型コロナウイルスはSARSと似通っている可能性が高い

そして、今回中国の武漢市において、2019年12月から発生して流行した肺炎において、その原因ウイルスとして上記の論文で同定されたのが、新たなコロナウイルス2019-nCoVです。

このウイルスはその遺伝子の75から80%が、SARS-CoVと相同性を持っています。
そして、複数のコウモリを宿主とするコロナウイルスとは、より高い相同性を持っています。
要するに今回の新型コロナウイルスは、コウモリを宿主とするウイルスが変異したもので、それが直接もしくは他の生物を介して、人間に感染したものの可能性が高く、その性質はSARSの感染症と似通っている可能性が高い、ということになります。

この新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様に、人間の気道にあるhACE2と呼ばれるタンパク質に結合して、そこから感染が始まると想定されますが、この蛋白は下気道のみに存在しているので、気管支炎のような症状を起こして初めて、周囲に感染すると考えられます。

つまりこの新型コロナウイルス感染症は、軽度の風邪症状のような状態ではほぼ感染はせず、痰がらみの咳などを浴びた時に初めて、感染が成立する可能性が高いと想定されるのです。
(ただこの点に関しては、1月26日に中国当局は、潜伏期にも感染が起こる可能性があるという趣旨の発表をしていて、既にウイルスの性質が、変異により変わっているという可能性もあります)

特徴は急激な肺病変の悪化

この論文では2例の肺炎事例が紹介されています。
1例目の事例は49歳の女性で、特に慢性病などの基礎疾患はなく、海鮮市場に勤務していました。
37から38℃の発熱と咳、胸部不快感で発症し、その4日後に解熱した一方で咳と呼吸困難は悪化し、CTで肺炎が診断されて入院となっています。

2例目の事例は61歳の男性で、発熱と咳で発症し、その7日後にARDSを発症して入院となっています。
発症8日目の胸部レントゲンがこちらです。

もう挿管して呼吸器管理となっています。
両肺に毛羽立ったと表現されるような、小葉単位の陰影が多発しています。

その更に3日後の画像がこちらです。

病変は繋がるようにしてより広がりを持ち、胸水の貯留も伴って悪化しています。

この急激な肺病変の悪化が、新型コロナウイルス肺炎の特徴です。

基礎疾患がなくても発症する上に、家族間感染の事例も

Lancet誌にも1月24日に以下の論文がウェブ掲載されています。(※2)
それがこちらです。

この論文では41例の新型コロナウイルス感染症の入院事例が解析されています。

患者の年齢の中間値は49.0歳で、基礎疾患が認められたのは32%と、多くは免疫の低下などはない一般住民です。
66%は海鮮市場に勤務していて、家族内感染の事例も認められています。

初期症状は発熱と咳が多く、初期には咳は痰がらみのことが多く、発症から中間値で8日で、55%の患者が呼吸困難を発症し、全例でCT検査で肺像が診断されています。

こちらをご覧下さい。

これは40歳の女性患者の発症15日目の画像です。両肺に多数の小葉性と区域性の浸潤影が認められます。

次にこちらをご覧下さい。

こちらは53歳の女性患者の発症8日目の画像です。両肺の磨りガラス様の陰性と区域性の陰影が混在しています。

入院事例のうち15%に当たる6例が死亡しています。

現状この新型コロナウイルス肺炎は、肺炎を起こしたような状態になって初めて、周囲に感染すると想定されますが、SARSはウイルス変異を起こして、その後感染力が増加したという経緯があり、ニュースなどで変異の可能性を危惧する声があるのは、そうした過去の経緯があるからなのです。

武漢への渡航歴がある人と接触し、発熱や咳がある方は要注意

現状の日本の対応ですが、発熱と咳の症状があって、2週間以内に武漢への渡航歴があるか、武漢への渡航歴があって発熱や咳のある人と接触した患者さんが、医療機関を受診した場合には、新型コロナウイルス感染症の疑い事例として、保健所に相談する、ということになっています。

そう言われても正直不安ですが、現状その可能性を頭に置きながら、日々の診療には緊張感を持って当たりたいとは思っています。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36