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2022.06.16

高齢者の高血圧治療はどのくらい続けるべき?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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高血圧の治療は短期で効果が出るものではなく、長い期間治療に取り組む必要があります。実際に効果が出るにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2022年5月9日ウェブ掲載された、高齢者の降圧治療の心血管疾患予防効果と、その発現までの治療期間を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

時間がかかる降圧治療

「高血圧の薬を飲むと、死ぬまで止められないのですよね」というような話は、特にお薬を飲むことに抵抗のある患者さんからは、よく聞かれる質問です。

僕は一応「薬の始め方・止め方」という本も書いているので、「そんなことはありませんよ」というお話はするのですが、勿論1か月程度の降圧治療に、それほどの効果のないことは間違いがありません。

高血圧には、上の血圧が200mmHgを超えるような、すぐにでも下げないと、脳卒中などのリスクがある、もしくはもう起こっている可能性がある、というような緊急を要するような状況もありますが、多くの高血圧はそこまでの緊急性はなく、生活改善と共に降圧剤を使用して血圧コントロールをするのは、主に脳卒中や心筋梗塞などの、将来的な心血管疾患の予防のためです。

この心血管疾患の予防のためには、ある程度の期間の血圧コントロールの継続が必要です。

通常心血管疾患の発症リスクをその後5年で算出することが多いのは、概ね5年は血圧コントロールの継続が、そのためには必要であることを意味しています。

特に治療の継続期間が問題となるのは、患者が高齢者である場合で、たとえば持病があってその後5年以内に亡くなる可能性が高いということになると、その時点からの降圧剤の使用は必ずしも必要性があるとは言えなくなります。

高齢者の降圧治療にかかる期間を解析

今回の研究はこれまでの6つの精度の高い臨床試験に含まれる、降圧治療を施行した60歳以上の27414名のデータを、その観点からまとめて解析したものです。

その結果、収縮期血圧が140mmHg未満を目標として、降圧治療を施行すると、心血管疾患の発症リスクを、トータルでは21%(95%CI:0.71から0.81)、有意に低下させていました。

これを治療開始後からの期間で解析すると、500人の治療当たり1人の心血管疾患を減少させるためには、平均で9.1ヶ月(95%CI:4.0から20.6)が必要で、これを200人に1人とするには19.1ヶ月(95%CI:10.9から34.2)、100人に1人とするには34.4ヶ月(95%CI:22.7から59.8)、が必要と算出されました。

このように、60歳以上での収縮血圧140mmHg未満を目指す降圧治療は、予測される余命が3年以上ある患者には適している可能性がありますが、余命が1年未満と想定されるような場合には、あまり意味のない可能性が高いと考えられました。

降圧治療は患者の人生をふまえて取り組んで

これはやや極端で機械的な分析なので、個別の事例によって判断される必要がありますが、降圧剤による治療というものは、その患者さんの今後の人生を必要な因子として考慮に入れた上で、その継続を考える必要があるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36