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2022.06.10

九十九里の海の幸!千葉県「せぐろいわしのごま漬け」【ニッポン地元メシ#22】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

全国で唯一、標高が500m以上の土地が存在しない千葉県。
台地や丘陵などなだらかな地形が多く、1年を通して比較的温暖な気候が特徴です。南房総海岸地域では冬でも霜が降ることはほとんどありません。

海に囲まれているため、海水浴シーズンは多くの家族連れで賑わうのはもちろん、一年を通じてサーフィンやジェットスキーなどマリンスポーツが盛んです。

そんな千葉県の名産といえば落花生やからし菜、新鮮な魚介類、干物などが浮かびますが、今回は海の幸であるイワシを使った郷土料理「せぐろいわしのごま漬け」を紹介します。

幕府も地元民も支えた千葉県の漁

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千葉県では古くから漁が営まれており、縄文時代の貝塚(現在のゴミ収集場のような場所)ではマグロやタイ、イカといった魚介の骨が出土しています。

江戸時代に入ってからは徳川家康が江戸を政治の中心としたこともあり、魚の需要が急増しました。
その際に、魚の供給の担い手として関西の優れた漁業技術を持つ漁師たちを江戸に呼び寄せ、銚子や九十九里に大規模なイワシ漁を根づかせたといわれています。

現在、利根川の最下流に位置する銚子港では年間20~30万トンもの魚が水揚げされていますが、中でも6~7月の梅雨時に水揚げされるマイワシは「入梅イワシ」と呼ばれ、脂がのって美味しいと人気の魚です。

また、九十九里エリアは遠浅で岩が少ないこともあり、地引網漁が盛ん。地引網で大量に取れたイワシは食用だけでなく、肥料や干しイワシ、〆粕などに加工され、全国に出荷することで地元民の貴重な収入源となっていました。

せぐろいわしのごま漬けとは?

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いわしは全国的にも有名で栄養価も高く人気の魚ですが、今回紹介する郷土料理で使われるのは「せぐろいわし」といわれるもの。
しかし呼び名は違えど、実はごく一般的に知られている「かたくちいわし」と同じ。九十九里で獲れるイワシは、地元民から愛着をこめて「セグロ」と呼ばれているそうです。

イワシは「鰯」という漢字からもわかるように、陸に上がるとすぐに弱ってしまうほど繊細な魚です。
しかし、九十九里エリアではイワシが大量に獲れることから、何とかして保存しようとさまざまなイワシ料理が生み出されました。そのひとつが「ごま漬け」です。

鮮度がキモ!ごま漬けの作り方

作る際に大切なのは、「新鮮なイワシを使うこと」です。

作り方はまずイワシの頭とはらわたを取り、綺麗に水洗いしたら1~2時間血抜きをします。
その後、8~10時間塩漬けにし、水洗いをしたのち酢、砂糖、酒を注ぎ入れ5~8時間漬けます。

その後、桶の中にイワシと炒ったごま、千切りしたゆずの皮と生姜、種を取った唐辛子を交互に重ね、最後にみりんを振り入れます。
ここに葉らんもしくは笹の葉で蓋をし、重石をします。水が上がってきたら容器を裏返して水分を抜き完成です。

時間はかかりますが、材料はとてもシンプルなのが特徴です。
ごま漬けは日常のおかずや酒の肴としてはもちろん、行事食としても親しまれている郷土料理です。

せぐろいわしのごま漬けの栄養

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イワシは健康食材としても人気の高い「青魚」の仲間です。
その秘密は「脂」にあります。

青魚には必須脂肪酸のひとつである「DHA」や「EPA」といった、オメガ3脂肪酸が含まれます。これらは私たちの身体の中では合成できないため、食事から摂る必要があります。

DHAは主に脳の情報伝達を助ける働きがあります。
EPAは血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪を下げ、いわゆる「さらさら血液」に役立ちます。また血管をしなやかに保つことで動脈硬化の予防にも役に立つとして知られています。
また、近年はアレルギー症状の対策としても期待されています。

そしてたっぷりと使われているごまには、強力な抗酸化作用を持つビタミンEが含まれています。ビタミンEは脂溶性ビタミンなので、イワシに含まれる脂質と一緒に摂ることでよりスムーズに吸収されます。
また、ごまの外側の皮には食物繊維も多く含まれています。

生姜は巡りを良くする働きがあり、漢方などでも古くから使われていますね。

唐辛子の辛み成分、カプサイシンには脂肪燃焼を助ける働きもあります。

このように、イワシのごま漬けは身体に嬉しい働きがぎゅっと詰まっています。温かいご飯に乗せると、醤油や柚子の香りもふんわりと漂い、食欲をそそる一品となります。

おいしいイワシ料理で食卓に魚を取り入れよう

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漁業のように、自然相手の仕事は体力勝負。日ごろから鮮度の良い食材を摂り入れることはもちろんですが、上手に保存した食材を活用することで元気な身体作りにつながっているのかもしれませんね。

せぐろいわしのごま漬けは、千葉県の郷土料理として農林水産省選定「農山漁村の郷土料理百選」で選ばれています。
お土産品として九十九里町や大網白里市の海側で盛んに生産されていますので、普段は肉料理が多いという方も、ぜひおいしいイワシ料理を楽しんでみませんか。

画像提供: (公社)千葉県観光物産協会

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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