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2022.12.21

お米のモチモチ感と焼いた香ばしさを堪能。秋田県「きりたんぽ鍋」【ニッポン地元メシ#35】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

東北地方の北西部に位置する秋田県。無病息災を願う伝統的な民俗行事、なまはげを思い浮かべる方も多いでしょう。また、秋田県と青森県にまたがる白神山地は、原生的なブナの森が広がり世界遺産に登録されています。

東北地方といえば、農作物にとって冷害の原因ともいわれる「やませ」が吹くことで知られていますが、秋田県では南北に連なる奥羽山脈によってやませがせき止められ、フェーン現象となり高温で乾いた風が吹きます。

この風が稲の成長にとって非常に良く、生保内(おぼない)地域では、宝風とも呼ばれているそう。今回は、稲作が盛んな秋田県ならではの郷土料理「きりたんぽ鍋」を紹介します。

「きりたんぽ」の由来とは?

きりたんぽ鍋の発祥は、大館・鹿角地方ですが、昔、炭焼きや狩りのために山籠もりをしていた人々が、残ったご飯をつぶして串などに刺して伸ばしたものを焼き、山中で獲ったキジなどが入った鍋に入れたことが始まりと言われています。

「きりたんぽ」は全国的にも広く知られていますが、なぜそのような名前が付いたかご存じでしょうか。

由来にはいくつかあるようですが、その一つがうるち米をつぶして串に刺した見た目が「短穂(たんぽ)槍」という、槍の穂先に形が似ているからというもの。その他にも、この見た目が植物のガマに似ており、短い穂の意味を持つ「短穂」に由来するという説もあります。

そして、”たんぽ”を”切って”鍋に入れることから、きりたんぽと呼ばれるようになりました。

きりたんぽ鍋の特徴は?

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きりたんぽ鍋のベースは、鶏ガラを水から煮込んでとったスープです。ここに鶏肉やごぼうを加え、さらに糸こんにゃくやきのこ類を加えて火が通ったら、醤油、酒、塩少々で味を調えます。最後に食べやすい大きさに切ったきりたんぽを並べて入れ、長ねぎとセリを加え、火が通ったら完成です。

使用する鶏肉は「比内地鶏」と呼ばれるもの。比内地鶏は元来のキジや山鳩に肉の組織が似ていて、脂がきめ細かいという特徴があります。

ハレの日に味わう鍋だった

秋田県の北部では、毎年新米の収穫を終えたころに、労を労うためにきりたんぽ鍋を囲む習慣があるそうです。発祥の地でもある大館市では、各家庭で受け継がれるおふくろの味でもあり、冠婚葬祭の食卓に並ぶおもてなし料理でもあります。

また、きりたんぽ鍋は2007年には農林水産省により農山漁村の郷土料理百選に、秋田県の郷土料理として選ばれています。

身体と心の栄養に!きりたんぽ鍋で元気をチャージ

きりたんぽ鍋は、主食(きりたんぽ)、主菜(鶏肉)、副菜(野菜やきのこ類)をひとつの鍋でとれてしまうため、栄養バランスの取れた鍋といえます。

鶏肉には身体の土台となるタンパク質が多く含まれており、だしは鶏ガラからとるためうま味もたっぷり。基本的には酒と醤油、塩以外の調味料は使用しません。しっかりとしたうま味を感じることができるため、鍋物でオーバーしがちな塩分が抑えられ、身体に優しい一品といえるのではないでしょうか。

また、きりたんぽ鍋をはじめ、鍋物の嬉しい点は加熱することで野菜のカサが減り、たくさんの量が食べられるということ!ただ、ごぼうに関してはあまりカサは変わりませんが、他の野菜同様、食物繊維を多く含みますので腸内環境を整えるのに役立ちます。

そしてメインともいえるきりたんぽは、お米を潰して串に刺し一度焼いてある状態ですので、普通のお米とは違い、モチモチ感と香ばしさを味わうことができます。お米には、脳と身体にとって重要なエネルギー源となる糖質が含まれているだけでなく、お茶碗1杯程度(150g)のご飯には、実はタンパク質が約3gも含まれています。鍋に入れることで少しふやけて柔らかくなったきりたんぽは、鶏と野菜からでたうま味たっぷりの汁を吸ってさらに美味しくいただけます。

そして、鍋を最後まで美味しく味わうコツは、味付けを濃くしないこと。
野菜や鶏のうま味、そして栄養素がスープにも溶け出ているため、スープを全て飲んで丁度いい濃さにとどめておくと余すことなく楽しめます。また、食べ残しがなべければフードロス対策にもつながります。

シンプルな味付けとうま味たっぷりなきりたんぽ鍋は、老若男女問わずにみんなで食卓を囲むことができるため、身体の栄養となるだけでなく、心の栄養にもなりますね。

きりたんぽによく似た料理とは?

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/29_4_akita.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/29_4_akita.html)

きりたんぽは、細長いちくわのような形が特徴的ですが、炊いたお米を潰してまん丸の団子状に丸めたものを「だまこ」といいます。こちらは八郎潟周辺の南秋地方が発祥といわれており、だまこを鍋に入れると「だまこ鍋」となります。きりたんぽもだまこも、米どころならではの楽しみ方ですね!

この他にも、いぶりがっこをはじめとした漬物の文化も多く残っています。秋田県を訪れた際は、ご紹介したきりたんぽ鍋をはじめ、味わい深い郷土料理をぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

記事情報

引用・参考文献

1.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/29_6_akita.html)
2.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/akita.html)
3.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/area/akita.html)
4.秋田名物本場大館きりたんぽ協会(https://www.city.odate.lg.jp/city/kankou/bussan/kitiranpo/p9187)
5.日本の郷土料理図鑑 きりたんぽ鍋とは(https://local-specialties.com/gourmet/000061.html)
6.美の国あきたネット(https://www.pref.akita.lg.jp/pages/contents/20230)

著者プロフィール

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磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)
管理栄養士・料理家 
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

制作

文:磯村 優貴恵

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