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2022.10.05

戦後の食料事情と産業が生んだ、広島県の「お好み焼き」【ニッポン地元メシ#30】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

中国地方の中央部に位置する広島県は、宮島の「厳島神社」と広島市内の「原爆ドーム」の2つの世界遺産があり、多くの観光客が訪れる地域。
国の重要無形民俗文化財やユネスコ無形文化遺産に登録されている伝統行事「壬生の花田植(みぶのはなだうえ)」も有名で、歴史や文化をしっかりと感じることができる県でもあります。

同じ県内でも地域で気候が異なり、北部は降水量が多く、南部は温暖で積雪が少なく、中部は高原地帯がありやや寒冷といった特徴があります。

特産品では、「広島レモン」と呼ばれる瀬戸内海沿岸の温暖な気候を活かして作られるレモンが人気。防腐剤を使わないことで皮まで安心して使える国産レモンです。
また全国有数の牡蠣の養殖場としても知られています。

今回は広島県の定番郷土料理でもあり、多くの方に愛されている「お好み焼き」を紹介します。

お好み焼きは「戦後の食糧事情」&「産業」の賜物

今や家庭の定番料理としても親しまれている「お好み焼き」。大阪府の郷土料理にも「お好み焼き」がありますが、それぞれ独自の材料と作り方でお好み焼き文化が浸透しています。
ちなみに広島県ではお好み焼きは「広島のソウルフード」とも言われており、人口10万人あたりのお好み焼きの店舗数は広島県が全国一位です。(「2014年経済センサス‐基礎調査」総務省)

広島県の郷土料理としての発祥は、戦前に食べられていた「一銭洋食」とされています。

一銭洋食とは水に溶いた小麦粉に刻んだネギなど乗せて焼き、ソースを塗って食べる鉄板1枚でできる料理のことです。
これが戦後に空腹をしのぐ食べ物として現在のお好み焼きへと形を変えていったといわれています。

広島県は倉敷や呉といった工業が盛んな地域があることでも有名。当時の広島は比較的に鉄が手に入りやすいということもお好み焼き屋が増えた要因と考えられています。
昭和30年代には麺や豚肉を加えるようになり、現在のお好み焼きの形に近づいてきました。

「混ぜない」「甘めソース」が決め手

作り方や具材は家庭によって様々ですが、広島県のお好み焼きの特徴は「混ぜない」ことと「甘めのソース」です。

まず、小麦粉とだし汁を混ぜ合わせたサラサラの生地を作り、油を引いた鉄板に薄く広げてクレープのような生地を作ります。
その上に細く切ったキャベツや葉ねぎ、もやし、イカ天、豚バラスライスをのせ、つなぎの生地を上から少しかけ、しばらく置きます。(魚粉や天かすを加えることもあります)
小麦粉の生地がカリっとなったらひっくり返して蒸し焼きの状態に。

その間に空いたスペースで焼きそばの麺も軽くほぐしながら炒めます。目玉焼きは黄身を軽く崩して平らにしておきましょう。
目玉焼きの上に麺をのせ、さらに蒸し焼きにしている野菜と生地を乗せます。
最後にもう一度ひっくり返して甘口のソース、青のりや鰹節、紅しょうがをトッピングすれば完成です!

マヨネーズは必須ではありませんが、お好みでかけてもOKです。
鉄板(ホットプレート)1枚、取り皿1枚で楽しめるため、洗い物も増えずに食卓を囲みながら食べられるのも嬉しいですね。

粉物でも栄養バランス◎

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お好み焼きに栄養価が高いイメージを持たれる方は少ないかもしれません。
しかし、お好み焼きの具材をひとつずつ見てみると、そのバランスの良さに気が付きます。

まずはエネルギー源である糖質、脂質、タンパク質。
糖質を含む小麦粉の生地は控えめですが、焼きそば(中華麺)を加えることでエネルギーをしっかりと確保できます。
糖質は脳と身体にとって効率の良いエネルギー源ですので、適度に摂れると良いでしょう。

身体の土台となるタンパク質は豚肉と卵から摂れます。
卵にはタンパク質のほかにもビタミンA、D、E、そしてB群も含まれます。
また豚肉と卵には、腹持ちアップに役立つ脂質も含まれます。
豚肉は脂身の多いバラ肉を使うことで全体の仕上がりにコクをプラスできますが、脂質が気になる方は脂身の少ない部位を使ってもOKです。

実は野菜たっぷり!

そして野菜をしっかり摂れるのがお好み焼きの嬉しいところ。普段は野菜嫌いの方でもお好み焼なら食べられる、という方は多いのではないでしょうか。

たっぷりと使うキャベツには食物繊維やビタミンCが含まれます。
葉ネギには強力な抗酸化作用を持つβ-カロテンが含まれます。
キャベツやもやし、ネギなどの野菜は蒸すことでうま味がぎゅっと閉じ込められるだけでなく、カサが減るのでたっぷりと食べられるのもポイント。
特にキャベツは芯の部分にもビタミンCが含まれています。加熱するとさらに甘みが増すため、普段は芯を捨てているという方は細く切ってお好み焼きに活用してみてくださいね。

このように、お好み焼きはワンプレートで栄養がぎゅっと詰まった料理だということがわかります。
また身体の栄養になるということはもちろん、鉄板を囲んで楽しく食べる「共食」は心の栄養にもなるため、心身ともに健康にいられる広島県民を支えるチカラメシなのかもしれません。

海の幸も食べてみて

資源が豊富な広島県にはまだまだ有名な食材がたくさんあります。

特に海の幸。牡蠣に関しては全国有数の養殖場で、牡蠣の土手鍋や牡蠣飯といった郷土料理も有名です。
その他にもたこ、サメ、アナゴ、いわしと様々な魚介が獲れ、それぞれに美味しく食べ継がれている郷土料理があります。

広島県に行かれた際にはお好み焼きはもちろんのこと、新鮮な魚介を用いた郷土料理を堪能してみてはいかがでしょうか。

参考:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/hiroshima.html)
参考:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/42_7_hiroshima.html)

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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