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2016.11.09

水戸黄門の印籠の中には「○○」が入っていた!?

KenCoM編集部

長寿大国となった日本。しかし、平均寿命が50歳を超えたのは戦後のことで、薬が庶民に広まった江戸時代後期でも平均寿命は35~40歳だったと言われています。
そんな時代に70歳以上の長寿を全うしたことで有名な、徳川家康、貝原益軒、そして水戸黄門のモデルとなった徳川光圀――。

ご長寿のひとり、徳川光圀のあの印籠の中には“丸薬”が入っていたのをご存知でしょうか?それはどんな薬なのか、紐解いていきます。

病からも庶民を救った黄門様

苦しむ庶民に生薬を広めた

「悪を成敗する庶民のヒーロー」の水戸黄門。モデルとなった徳川光圀公は、病や怪我からも庶民たちを救った人でした。

庶民が苦しんでいるのを目の当たりにし、光圀公は藩医の穂積甫庵(ほづみほあん)に命じて、手に入れやすい薬草や、生薬を記した『救民妙薬』を作らせたのです。誰でも読みやすい横本で、394種の民間薬の使用方法や、健康法がわかりやすく掲載されています。

印籠には「六神丸」のような薬が入っていた

そんな健康オタクの黄門様。TVドラマ「水戸黄門」の1シーンで、黄門様が「格さん、例の薬を」と言ったあと、印籠から丸薬が登場するシーンをご存知でしょうか。ドラマで薬の正体は明かされませんが、食あたりや頭痛にも使われる万能薬として描かれます。

その薬は、いまも販売されている伝統薬「六神丸」のような成分だったと言われています。

「六神丸」の草分け的存在「亀田六神丸」を製造する京都「亀田利三郎薬舗」の亀田利一さんにお話を聞くと、
「江戸時代の旅は今でいう海外旅行のようなもの。衛生状態も悪く賞味期限などもない時代、食事するにも鼻や舌を頼りにしていたであろう」とのこと。

生薬に精通した黄門様が、過酷な道中の「懐中薬」として携帯していたことを考えると、その薬はきっと重宝されたことでしょう。

六神丸とはどんな薬なのか

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六神丸は、京都の呉服商・亀田利三郎が日清戦争(1894〜95)後、中国へ渡ったとき、その薬効を知って日本へ持ち帰り「亀田六神丸」として販売したのが日本での草分けと言われています。

現在の亀田六神丸は「めまい、息切れ、気つけ、腹痛、胃腸カタル、食あたり」に効く第二類医薬品の市販薬。「『めまい』に効いたという声が多く寄せられ、強心、胃腸の不調にも効果がある」(亀田利三郎薬舗・亀田利一さん)。

プレゼン前に緊張してドキドキするといった「あがり」にも効果を発揮し、ある元宝塚スターも舞台前には必ず「亀田六神丸」を一粒服用されているそうです。その効き目の源になっているのが「麝香」をはじめとする希少な生薬です。

六神丸をつくる主な生薬

麝香(じゃこう):ジャコウジカから採取

牡のジャコウジカの陰嚢付近にある袋の分泌線から採取する「麝香」は、香水「シャネルの5番」に配合されていたことで有名。その独特の香りの正体は“フェロモン”です。

薬理作用として、中枢神経興奮作用、呼吸器系や、循環系神経の興奮作用、血圧降下作用、男性ホルモン様作用が明らかになっており、その希少性に拍車をかけているのが、男性ホルモン様作用への過大な期待だといいます。

蟾酥(せんそ):ガマの油

「ガマの油」は耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。蟾酥はガマガエルの耳下分泌液で、ガマの油とも呼ばれます。薬理作用には沈痛、強心効果があり、舌に触るとしびれを感じさせる生薬です。

亀田六神丸の処方は、発売当時から主な原料はほとんど変わっておらず、この他、牛黄、熊胆、人参、真珠、など貴重な生薬を使用して作られます。

麝香が底をつきたら製造を止める

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亀田六神丸の歴史は、決して順風満帆ではなく、明治、大正、昭和・・・と時代が変化する中で、度重なり成分の改変を余儀なくされました。

1度目は、明治33年の薬制改革の際、鶏冠石(ヒ素を含む)が毒薬に指定され一般に使用できなくなったこと。これを機ととらえて国産化に踏みきります。さらに2度目、昭和48年に辰砂という水銀製剤が使用できなくなり、代わりに朝鮮人参が加えられました。

そしてこれから3度目の局面が訪れようとしています。

困難に直面する原料の入手

1グラム1万円以上の希少価値のある犀角

1グラム1万円以上の希少価値のある犀角

それは原料の枯渇。薬の品質を左右する、良質な動物性生薬は入手ルートが限られており、亀田利三郎薬舗では長年その入手に腐心してきました。ワシントン条約で麝香や犀角などの一部生薬はすでに輸入が禁止されているため、現在の製造は大量の備蓄でまかなわれています。

「『麝香』の備蓄がつきたら六神丸の製造を止めようと思っているんです」(亀田利一さん)

亀田六神丸は、他社の約4倍の麝香を配合しています。かたくなにその配合を守り抜いてきたからこその決断。亀田利三郎薬舗は、新たな展開を見せようとしています。

老舗薬店の新しい展開

そのひとつが100年ぶりの新製品。漢方薬に配合される生薬を入浴用にブレンドした「スパハーブ」は、冷え性やストレス緩和に効果が期待できます。オリジナルのブレンドの商品もオーダーできるとのことで、京都の老舗和菓子店などとのコラボ商品にも注力。

そのコンセプトと品質に注目した女性誌やテレビ番組などのメディアでも紹介され、若い女性など新しい顧客の開拓に向けて活動中。生薬へのこだわりを全く別のかたちで体現した商品が生まれました。

天然の漢方生薬が入った入浴用漢方スパハーブ

天然の漢方生薬が入った入浴用漢方スパハーブ

「薬は広告で売るものではなく、実際の効果で売れるもの」(亀田利一さん)
その語り口にはどこか老舗ならではの自信が感じられます。黄門様の時代から変わらない、生薬への信頼が根底にあるからなのかもしれません。

水戸黄門の印籠の中は薬だった

ということで、黄門様の印籠の中は「薬」が入っており、それに似た薬は、現在も貴重な原料を使って作られ、多くのファンを支えていました。

そして最後に余談ですが、水戸黄門のドラマではどこで薬が登場するの?と気になった方。
TBSのホームページには、以下のような印籠と薬のエピソードが紹介されています――。

・目つぶしを食らった黄門様、印籠の薬で目を洗う。(第3部7話)
・鉄砲で撃たれた弥七が次の週にはぴんぴんしている。(第1部30話)
・格さんに「例の薬を」と言って飲み薬を出させる。八兵衛によると「棺桶に片足つっこんだばあさんが10日で直った」らしい。値段は10両!?(第9部27話)

(TBS「水戸黄門大学」より引用)

かなりの脚色が入っているとは思います。しかし、当時の人にはこのくらいインパクトのある「お守り」のような存在だったに違いないでしょう。

(取材・文/KenCoM編集部)

参考サイト

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