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2016.09.30

ピリっと旨い風邪予防!「七味唐辛子」は食卓の漢方薬

KenCoM公式ライター:中野友希

江戸時代に誕生した七味は和食に欠かせないミックススパイス。ぴりりとした辛味が食材の味を引き立て、アクセントにもなり和食をスパイシーに食べることができます。けしの実、山椒、黒ごま、チンピ、唐辛子など、ブレンドされるスパイスは地域によって様々。

ここでは、和食をより大人の味わいに仕上げてくれる七味唐辛子の知られざるパワーに迫ります。

江戸時代、七味は漢方薬として生まれた!

七味唐辛子の歴史は、そう古くありません。ブレンドされる材料のひとつ山椒は、縄文時代から使われている日本最古のスパイスといわれていますが、様々なスパイスをブレンドした「七味唐辛子」は、唐辛子をベースとして数種類のスパイスをミックスしてつくられます。

この七味唐辛子の誕生は、江戸時代初期といわれており、なんと漢方薬として食に利用しようと考えたのが始まりでした。薬研堀(やげんぼり・現在の両国橋付近)に、徳右衛門が店を開いたことから、七味唐辛子は別名「薬研堀」とも呼ばれています。七味唐辛子は、蕎麦にぴったりの薬味として瞬く間に人気となりました。

薬研堀は、江戸の中でも医者や薬問屋が集まる町で、体を温めてくれる唐辛子やごまの風味が感じられる七味唐辛子は、風邪に効くと人気になったそうです。昔は、うどん屋や蕎麦屋が薬屋を兼ねることが多く、風邪をひいたらアツアツのうどん、あるいは蕎麦を食べて、生姜湯を飲み、風邪を治すという習慣がありました。

七味と一味の違い

七味はいくつかのスパイスをブレンドしたもの

薬味として用いられるものには、「七味唐辛子」と「一味唐辛子」が存在します。気に留めない方も多いかもしれませんが、一味は赤唐辛子のみ、七味はいくつかのスパイスをミックスしたものをいいます。

唐辛子は中南米原産のスパイスですが、日本に伝わってきたのは16世紀から17世紀の間。当初は一味唐辛子として、赤唐辛子を挽いたものを使っていました。

七味唐辛子の生薬としての効果・効能

七味唐辛子は、赤唐辛子がベースとなりますが様々なブレンドがあります。京都や信州では独自の発展を遂げたり、関東と違い関西では昆布や鰹のすっきりとした出汁に合わせて、辛味よりも香りを重視した七味唐辛子のブレンドになっているようです。

ここでは、七味唐辛子に加えられている素材の中から特に代表的な5つのスパイスの効果や効能についてみていきましょう。

唐辛子:食欲増進や発汗作用

唐辛子は、鮮やかな赤い色から想像できるとおり、とても辛味の強い香辛料。「チリペッパー」と呼ばれていますが、日本では「外国から伝わった辛子(からし)」という意味で、「唐辛子」と呼ばれています。その他にも「レッドペッパー」や「カイエンペッパー」という名でも呼ばれています。

日本には戦国時代頃伝わったとされていますが、その種類は世界中で3000種類以上ともいわれています。スパイスとしては、完熟した赤い果実を乾燥してつくりますが、その強い辛味は「カプサイシン」によるものです。カプサイシンは、少量であれば胃が適度に刺激され、唾液が分泌し食欲が増進されます。また、カプサイシンの強い辛味と刺激によって、体を熱くすることで発汗させる作用があります。

山椒:縄文時代から親しまれた日本最古のスパイス

山椒は、日本で一番古いスパイス。インドなどでは様々なスパイスを調合してスパイス文化に広がりがありますが、日本で使われるスパイスはそれらに比べれば数少ない種類になっています。山椒は、「魏志倭人伝」や「古事記」では、別名「ハジカミ」と記されており、また「ジャパニーズペッパー」とも呼ばれています。

平安時代以降は、薬用として用いられており、のぼせや咳、下痢に効果があるとされてきました。室町時代には、すでに今と同じようにウナギの蒲焼きに山椒の粉をふりかけて食べていた、という記録が残っています。山椒の若葉、花、果実は、それぞれ「木の芽」「花山椒」「青山椒」と呼ばれ、薬味やスパイスとして様々な料理に欠かせないものとなっています。

昔から、「木の芽」は叩いてからつかえ、といわれてきました。『スパイスなんでも小辞典(講談社出版)』によれば、木の芽を叩いた時の芳香成分を分析したところ、叩かない木の芽より、叩いた木の芽の方が芳香成分がより多く生成されることが明らかなになっています。気分を落ち着かせてくれる「αピネン」や、爽やかな香りが特徴の「青葉アルコール」、柑橘類のような香りの「シトロネロール」などが、より多く抽出されたとのことでした。

一方で「すり潰す」と大量の香り成分が発揮され、むしろ青臭い嫌な香りとなってしまい全く逆の効果になってしまいます。軽く叩くことで、嫌な青臭さをださず、山椒の程よい香りとその効果を得ることができるというわけです。

けしの実:食感が特徴的なとても小さいスパイス

ポピーシードとも呼ばれている小さなスパイス「けしの実」。あまり意識されない食材ですが、アンパンにトッピングされている小さなゴマのようなスパイス、といえばピンとくるかもしれません。

味わいにはあまり特徴がありませんが、ぷちぷちとした食感が楽しく加熱するとナッツのような香りがたち、様々な料理に欠かせないものとなっています。ホワイトポピーシードとブルーポピーシードの2種類がありますが、これはアジア産かヨーロッパ産かという産地による違いなのだそうです。

ごま:クレオパトラも愛した「食べる丸薬」

日本でもなじみの深いスパイス「ごま」。「食べる丸薬」ともいわれ、世界三大美女と呼ばれているクレオパトラからも愛された栄養価抜群のスパイスです。

近年の発掘調査で、紀元前3500年頃のインドが発祥地といわれ、日本でも縄文時代の遺跡からごまの種子が発掘されています。古代エジプトでは食用、灯火用、香料、防腐剤だけでなく薬用としても用いられていました。ごま油は肌を滑らかにするといわれており、かのクレオパトラは肌の艶を出すために、体にごま油を塗っていたのだとか。

チンピ:抗酸化力を高め、風邪予防にも効果あり?

チンピ(陳皮)は、柑橘類の皮を1年以上干した生薬のひとつです。柑橘系独特のさわやかな芳香を持ち、七味唐辛子の素材以外でも、和食や中華料理の香りづけなどにも使われます。チンピに含まれているビタミンCには抗酸化作用があ、他にも免疫力を高め、風邪予防に有効だという声もあがっています。

オリジナル七味をつくってみた

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先日、薬日本堂で開催の「手作り七味唐辛子」イベントに参加してみました。この日はベースの4種類のスパイスに加えて自分の健康状態に合った3種のスパイスを加えます。基本は唐辛子、麻の実、山椒、芥子の実の4種類です。

自分の健康状態に合わせてつくれる

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健康に関するチェックリストを元に、追加する3種類のスパイスを選びます。今回は血の巡りが滞りやすい「瘀血」タイプに合った3種、いわし、みかんの皮(陳皮)、青のりを加えました。いわしなどは七味には珍しい材料だと思いますが、配合にアレンジが効のがくミックススパイスの面白いところですね。原料の効果を知りつつ手作りすると、七味唐辛子がかつては薬として販売されていたことがうなずけます。七味唐辛子専門店である東京・浅草の「やげん掘」は配合をカスタマイズできたり、長野・善光寺近隣が本店の「八幡屋礒五郎」は、メインとなるスパイスの種類が豊富ですので、さまざまな配合の七味を楽しんでみても良いですね。

マイ七味を持ち歩こう

七味の魅力について、いかがでしたでしょうか。和食通に欠かせないスパイス、七味唐辛子は日本が古くから使用してきた山椒や、江戸時代になって外国から伝わった唐辛子、漢方薬として今でも活躍しているチンピなど、様々なスパイスがブレンドされた、いわば「食卓の漢方薬」。

組み合わせるメニューや好みによって、「マイ七味」をつくれば、きっとその魅力に引き込まれてしまうはずです。ちょっとした風邪の予兆や疲れの緩和に、マイ七味を活用してみてはいかがでしょう。

参考文献

<著者プロフィール>

■中野友希(なかの・ゆき):
大学卒業後、税理士事務所、社会福祉法人での経理・税務の業務の傍ら、労働環境改善やメンタルヘルスケアにも取り組む。出産後はウェブライターに転身し、三ツ星レストランや老舗料亭など飲食店への取材・ライティングを手がけた。現在は、”シンプルにわかりやすく伝える”ことをモットーに、ママ向けメディア、ヘルスケアメディア、ペット専門メディアなどでライターとして活動している。

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