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2021.11.04

乳製品を多く摂れば高齢者の骨折が予防できる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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骨を強くしたいならカルシウムが必須、とよく言われていますが、どうやらカルシウムだけでは大きな効果がでない可能性があるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2021年10月20日ウェブ掲載された、乳製品の使用による高齢者の転倒骨折予防効果についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

高齢者の転倒や骨折を減らすには、カルシウムが大事?

高齢者の転倒による骨折は、寝たきりへの移行の大きな要因で、その多くは大腿骨頸部骨折によるものです。骨量が低下し骨が脆弱になっている高齢者では、躓いて足を踏ん張っただけでも、そうした骨折が簡単に起こってしまうのです。

この転倒や骨折の予防として、これまで主に試みられてきたのがカルシウムの補充です。

ただ、カルシウムのみの補充は、最近の臨床データではあまり良い結果がなく、むしろ高齢者のトータルな予後に悪影響を与えたという報告もあります。

そこで栄養学的観点から検証されているのが、「カルシウムとタンパク質を同時に補充する」という考え方です。

カルシウムとタンパク質を強化する食事で検証

今回の研究はオーストラリアにおいて、60の高齢者施設を登録して、それをくじ引きで2つの群に分けると、一方は2日700mgのカルシウムと体重1キロ当たり0.9gのタンパク質を含む、通常の食事を継続し、もう一方はそれに加えて、牛乳、チーズ、ヨーグルトの乳製品を強化して、カルシウムは1日1142mg、タンパク質は体重1キロ当たり1.1gを維持し、2年間の経過観察を施行しています。

その結果、カルシウムとタンパク質を強化した施設は、通常の施設と比較して、トータルな骨折のリスクが33%(95%CI:0.48から0.93)、大腿骨頸部骨折のリスクが46%(95%CI:0.35から0.83)、転倒のリスクが11%(95%CI:0.78から0.98)、それぞれ有意に低下していました。

このリスクの低下は試験開始後3か月で認められ、死亡リスクについては有意な差はありませんでした。

栄養療法のみで転倒骨折リスクが減らせるかも

このように、施設間の比較で個々の入居者の比較ではなく、その点のバイアスは否定できないのですが、栄養療法のみでかなり明確な転倒骨折リスクの差が見られたことは、とても興味深い結果で、今後より詳細な検証に期待したいと思います。

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36