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2020.06.23

新型コロナの死者はインフルエンザと同じくらい…は本当か?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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日本国内で新型コロナで亡くなられた人の数は、6月20日現在、953名にのぼります。しかし、毎年インフルエンザでも多くの人の命が奪われている事実をご存じでしょうか。厚生労働省の人口動態統計によると2018年、2019年には3000人を超える人が亡くなられています。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのはJAMA Internal Medicine誌に2020年5月14日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症による死亡数と、季節性インフルエンザによる死亡数との差についての解説記事です。

▼石原先生のブログはこちら

アメリカでは新型コロナもインフルエンザも6万人を超える死者が出ている

アメリカでは2020年5月初めまでに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために65000人の死者が報告されています。

しかし、実はアメリカのCDCが発表している統計によると、毎年の季節性インフルエンザによる死亡数も、年による変動はありますが、ほぼ同数の年もあるとされています。

それでは、毎年同じように流行している季節性インフルエンザと新型コロナウイルスは、同程度の重さの病気なのでしょうか?

確かにメディアなどでそうした発言をされている著明な方もいます。「新型コロナウイルスと言っても、季節性インフルエンザと同じくらいの患者しか死んでいない。みんな怖がり過ぎているんだ」というのです。

これは本当でしょうか?

新型コロナとインフルエンザでは何が違うのか?

新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、特に流行が爆発したニューヨーク州で深刻な医療崩壊が起こり、公園の仮設の病院において、人工呼吸器を並べて重傷者の診療を行っている…というような報道がありました。

仮に季節性インフルエンザにおいても、同じくらいの重傷者が出ているのだとすれば、毎年医療崩壊が起こっていないとおかしい、ということになります。そんなことはないですよね。

一体何が間違っているのでしょうか?

新型コロナウイルスの死亡数というのは、実際に報告された患者数を集計したものです。

その一方で季節性インフルエンザの死亡数というのは、報告された死亡数のみではなく、そこから全国の死亡数を推計して計算して出している数値なのです。

2013年から2019年のインフルエンザの流行期において、年間の季節性インフルエンザによるアメリカ全土の死亡数は、23000名から61000名の間の数字が年毎に報告されています。しかし、実際に個別に報告された死亡数は3448名から15620名です。

要するに23000名から61000名という数値は、3448名から15620名をサンプルとして考えた時に、全国ではそのくらいの人数が死亡している筈だ、という推測の数字にしか過ぎないのです。

これが2017年から2018年のシーズンでは、推計された死亡数が61000名となっていて、このシーズンのインフルエンザの流行はかなり深刻ではあった訳ですが、それでも新型コロナウイルスに匹敵する、というような数字ではないのです。

パンデミックの深刻さはインフルエンザの10倍以上!

2020年の4月21日までの1週間で、新型コロナウイルス感染症で死亡した人は15455名と報告されています。

同様の週毎の季節性インフルエンザによる死亡数は、2013年から2020年の間では351名~1626名と報告されています。

つまり、季節性インフルエンザの死亡数の同じ期間で9.5から44.1倍、平均で20.5倍の死亡が、新型コロナウイルス感染症では起こっているというのが実数であることが分かります。

厳密に言えば、インフルエンザによる死亡数も新型コロナウイルスの死亡数も、いずれも少なからず漏れているケースが想定されますが、いずれにしてもアメリカにおいて、新型コロナウイルスのパンデミックの深刻さは季節性インフルエンザの10倍以上ではあるというのが実際と考えて良いようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36