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2021.10.27

のどのがんとQOLを両立するために。治療の選び方と予防法【のどのがん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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初期段階では自覚症状に乏しく、気づいた時にはかなり進行している事が多い「のどのがん」。万が一「のどのがん」が見つかった際には、どんな検査や治療をするのでしょうか?最善の治療法を選ぶにはどうしたら良いのでしょうか?また、予防法はあるのでしょうか?

長年「のどのがん」の治療に携わっている国立がん研究センター中央病院頭頸部外科長、吉本世一先生に伺いました。

のどのがんの検査方法

がんが疑われる場合は、内視鏡(電子スコープ)を鼻から入れて、口の奥や、のどの粘膜の状態など、咽頭部および喉頭部全体をカメラで詳しく見ていきます。内視鏡と聞くと苦手意識を持たれている方がいますが、局所麻酔薬をスプレーして行う上に、鼻から入れる内視鏡は細い管です。小さな子供でもできるほど痛みや負担の少ない検査といえます。胃の検査のように前処置も不要で、所要時間は1〜3分程度です。このとき、診断を確定するための生検に必要な組織を、内視鏡の先にある小さな鉗子を使って、同時に採取します。生検でがん細胞が確認されれば、診断でがんが確定します。

そのほか、必要があれば、がんの進行度や転移の有無を調べるために、CTやMRIなどの画像検査も行います。

進行度別 のどのがん治療

がんの治療法には大きく分けて、がんを切除する「手術」、がんに放射線を当てる「放射線治療」、抗がん剤を使う「化学療法」(薬物療法)の3つがあります。信頼できて、もっとも適した治療を「標準治療」と言いますが、標準治療として複数の治療法が挙げられている場合もあり、どの治療を選択するかは、がんのある部位の詳細な情報や悪性度、また、患者さんの身体の状態、年齢、希望などを含めて検討し、担当医とともに決めていきます。

のどのがんでは、「食事をとる」「発声をする」といった機能を温存することも重要視しています。

早期がんは「放射線治療」が治療の主軸

早期がんの場合は、「手術」か「放射線治療」のどちらかが選択されます。早期の喉頭がんであれば、多くの場合、「声の機能が温存できる、放射線治療」だけで完治を目指します。また、また、早期の咽頭がんも、放射線治療で完治が可能です。しかし、治りが悪いと予想されるときは抗がん剤を使うこともあります。

放射線治療は周辺組織への被爆リスクを懸念される方もいますが、様々な進歩によって、放射線をがんに集中的に照射できるようになり、以前より副作用が軽減されています。

経口手術で負担も軽減

また、がんが浅く粘膜にとどまっているような場合は、手術による治療でも、食べたり、話したりという機能に問題なく根治を目指せます。これまでの手術は、首を切開して行われていたため、患者さんに大きな負担がかかっていました。ところが、最近では、口から内視鏡を挿入してがんを切除する、経口的手術が普及してきました。手術は約1~2時間程度。経口的手術は傷が最小限に抑えられ、患者さんへの負担も少ないため、術後の入院期間は数日〜1週間程度と短く済みます。

進行しているがんは、必要により複数の治療を組み合わせて行う

がんが深く広がっている場合は、放射線治療だけで治すのは難しいので、多くの場合、「手術」「放射線治療」「化学療法」の3つを組み合わせて治療をしていきます。例えば、喉頭がんの場合は、首を切開して喉頭を全て摘出する手術を行います。その後、切除部分を縫い合わせて塞ぎ、食事の通り道を作ります。気道と食道が分離されるため、鎖骨の少し上のところに、新たに空気が通る永久気管孔を作ります。喉頭をすべて摘出すると、声帯も取り除かれるため、声を出すことができなくなります。

なお、上咽頭がんは放射線と抗がん剤による治療が中心、中咽頭と下咽頭の進行がんは、放射線と抗がん剤による治療、もしくは手術が行われます。

治療後の生活をイメージすることが大切

のどには、呼吸を始め、食べる話すなど人として生きるための機能が集中しています。早期であれば、こうした機能に障害はほとんど残りませんが、進行すると治療後に飲食がスムーズに行かなかったり、手術で声を失わざるを得なかったりすることがあります。がんの根治をめざしつつ、いかに機能を残すかが、これらのがんの治療の課題の一つになっています。

しかし、喉頭を摘出する事は悪い事ばかりではありません。食べ物の通り道と呼吸の通り道が別々になるので、高齢者になっても誤嚥性肺炎になりにくくなります。以前と全く同じようには話せなくなりますが、のどに振動音を伝える専用の補声器(人工喉頭)を使ったり、げっぷの要領で音を出す食道発声法を習得などすれば、声による意思疎通も可能になります。近年は、さらに自然な声の出るシャント発声法(プロボックス)も普及しました。

私は「生きる事は、食べる事」だと思っています。患者さんにとって、食べられない事は、声が出せないよりも辛い事が多いので、ある程度の年齢になってきたら、無理やり咽頭を残すよりも、音声を失っても、好きなものを美味しく食べられる身体にしておく方が、QOLが高い場合が多いと考えています。長いスパンで治療後の生活をイメージして、主治医とよく相談しながら治療を検討してほしいと思います。

のどのがんの予防法

では、のどのがんにならないためには、どんな生活習慣を心がければ良いのでしょうか?

禁煙しよう

タバコは、電子タバコを含めて、がんのリスクになります。喉頭がんの患者さんは、90%が喫煙者です。他にも、肺がんをはじめ食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんなど多くのがんに関連することもわかっています。百害あって一利なしと心得て、なるべく早く禁煙することをお勧めします。

飲酒の習慣を見直す

(参考)国立がんセンターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」飲酒量の目安より

(参考)国立がんセンターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」飲酒量の目安より

お正月やお盆など、行事の時に楽しくお酒を飲むのは良いと思います。しかし、飲酒が毎日の習慣になっている方は、見直しましょう。なかでも、「アルコールを飲むと顔が赤くなる方は、アルコール分解酵素が弱く発がんリスクが高い体質」なので要注意。ノンアルコールビールなどを上手に取り入れるなどの工夫で、アルコールの度数や、量をしっかりと制限して生活しましょう。

また、お酒が強い方でも、多量飲酒は発がんの可能性が高くなります。以下の「飲酒量の目安」を参考にし、休肝日を作るようにしましょう。

喫煙、大量飲酒、家族歴に当てはまる方は、積極的に医療機関に受診を!

自治体の対策型がん検診や人間ドックの項目には、多くの場合、のどのがんは含まれていないので、発見が遅れがちです。加えて、のどのがんは早期には症状が目立たないものも多く、早期発見のためには、積極的な医療機関への受診が欠かせません。特に、喫煙をする方、多量飲酒が習慣になっている方、また、のどのがんに家族歴がある方はリスクが高いと考えて、わずかな異常でも積極的に医療機関を受診することをお勧めします。 

とにかく、声が枯れたり、のどの違和感など、のどの不調が数ヵ月続くようであれば、なるべく早く病院で検査を受けましょう。

禁煙、節酒、積極的な受診でのどを守ろう!

のどのがんの患者数は他のがんに比べて多くはありませんが、決して他人事ではない病気です。放置すれば、食事や会話に支障をきたすこともありえます。この記事を機会に、禁煙と節酒を今日から心がけ、大切なのどを守ってほしいと思います。

吉本 世一(よしもと・せいいち)先生

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国立がん研究センター中央病院 頭頸部外科長(副院長 希少がんセンター 併任)

【プロフィール】
1991年東京大学医学部卒業後、1991年東京大学医学部附属病院・耳鼻咽喉科、1995年癌研究会附属病院(現:がん研有明病院)・頭頸科(2001年4月~9月 米国ペンシルバニア州立ピッツバーグ大学附属病院耳鼻咽喉科留学)を経て、2008年より、国立がん研究センター中央病院・頭頸部外科に勤務した後、現職。日本耳鼻咽喉科学会指導医、日本がん治療認定医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医制度指導医。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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