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2021.10.27

タバコを吸う人、お酒で顔が赤くなる人は要注意!喉頭がん・咽頭がんを知る【のどのがん・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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とくに男性がなりやすく、50~60歳代から増加するのどのがん。音楽プロデューサーのつんく♂さんなど著名人が患い、声帯を摘出したニュースでご存知の方は多いのではないでしょうか。

のどは話す・食べるなど、生活する上で欠かせない五感に関係する部分。進行するとQOLに大きく影響することから、早期発見が大切といわれますが、この領域のがんは一般的な人間ドックの項目に入っていないうえに、初期段階では自覚症状が乏しく、気づいた時にはかなり進行しているケースもあるそうです。気がつきにくいのどのがんに、どうやって早く気がつき、正しい対処をしていけば良いのか?国立がん研究センター中央病院頭頸部外科長 吉本世一先生に伺いました。

吉本 世一(よしもと・せいいち)先生

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国立がん研究センター中央病院 頭頸部外科長(副院長 希少がんセンター 併任)

【プロフィール】
1991年東京大学医学部卒業後、1991年東京大学医学部附属病院・耳鼻咽喉科、1995年癌研究会附属病院(現:がん研有明病院)・頭頸科(2001年4月~9月 米国ペンシルバニア州立ピッツバーグ大学附属病院耳鼻咽喉科留学)を経て、2008年より、国立がん研究センター中央病院・頭頸部外科に勤務した後、現職。日本耳鼻咽喉科学会指導医、日本がん治療認定医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医制度指導医。

のどのがんとは

のどのがんは、大きく分けて「咽頭(いんとう)がん」と「喉頭(こうとう)がん」に分かれます。咽頭、喉頭と聞いてピンとこない方も多いと思いますので、まずはのどの構造から見ていきましょう。

咽頭・喉頭の違い

(参考)国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス 喉頭がんについて

(参考)国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス 喉頭がんについて

人間ののどは「喉頭」と「咽頭」という2つの部分からなっています。
喉頭とはいわゆる「のどぼとけ」のところで、「舌の舌の奥から気管につながる部分」を指し、空気の通り道になっています。喉頭の最大の機能は、食べ物が気管に入らないようにする弁の役割で、食べ物を飲み込む瞬間だけ、口蓋垂が上に動いて鼻腔への通路を塞ぐと同時に、喉頭蓋が後ろに倒れて気道を塞ぎます。発声器官の役割もあります。
 
咽頭は、喉頭の奥に位置していて、鼻や口から食道につながる部分をさします。「空気と食べ物、両方の通り道」で、鼻の奥に当たる「上咽頭」、口の奥の「中咽頭」、食道の入り口付近の「下咽頭」と細かく部位が分かれています。

咽頭がん、喉頭がんの特徴

咽頭がんや喉頭がんは、全身のがんの中でも患者数は少ない方です。咽頭がんと喉頭がんを比較すると、咽頭がんの方が多い事が分かっています。

咽頭がんには、「上咽頭がん」「中咽頭がん」「下咽頭がん」があります。日本では、中咽頭がんと下咽頭がんが多く、上咽頭がんは少数です。咽頭がんは、症状が出にくく進行した状態で見つかる事が多い傾向があります。

喉頭がんは、「声門がん」「声門上がん」「声門下がん」の3種類に分けられます。この中で、声帯の近くにがんができる「声門がん」が多く、声が枯れるなど、はっきりと自覚症状が出るため、早期がんが多く、たとえ進行しても適切な手術を受ければ転移が少ないがんです。治癒率は70%強と高い方で、早期に発見すれば声を失うことなく治癒することが可能です。患者さんの90%以上が喫煙者と言われています。

のどのがんの症状

のどのがんの症状は、がんが発生した部位や進行度によって異なります。また、のどのがんは、早期には症状があまり現れませんが、症状が出る場合は、声のかすれや、のどの痛みなど、風邪によく似た症状が続くため、放置される事も少なくありません。

大事なのは「症状が2〜3ヵ月続くような場合は、迷わず医療機関を受診する」ということ。初めはおぼろげだった症状が、だんだんと強くなり、はっきりと自覚できる場合はがんの可能性があります。

声のかすれ(喉頭がん)

比較的早く症状が現れるのは、喉頭がんの「声門がん」の症状です。声がかすれたり、全く響かないような音が声に混じったりするため、気がつきやすく、早期発見につながる症状といえます。

飲み込みにくい・のどの違和感(中咽頭がん・下咽頭がん)

食べ物は中咽頭から下咽頭を通って食道に行くため、ここにがんができると、飲み込みにくさや、のどの違和感が生じます。特に、飲み込む時に痛みが増強するような症状が続くときは、しこりやがんがある重要なサインです。

首のしこり

また、のどの症状は何もないのに、首が腫れてがんが見つかる場合もあります。これは、がんが進行して、周囲のリンパ節に転移したことから、通常は柔らかい小さなリンパ節硬く大きくなるためです。見た目には分かりにくいときでも、手で触れて左右を比べると、なんとなく腫れぼったい感じがしたり、硬いしこりがわかったりすることがあります。

上記に挙げたような各症状の他にも、中咽頭がんでは左右どちらかの扁桃腺が腫れたり、上咽頭がんなどは耳管が塞がったりと、のどや耳の症状となって現れることもあります。

リスクの高い人は?

のどにできるがんは、女性よりも男性の方が罹患しやすく、50~60歳代から増加します。最も重大な危険因子は、「喫煙」と「飲酒」で、どちらものどへの刺激となって炎症を起こさせ、がんの発生に強く影響を及ぼします。

特に、喉頭がんはタバコの影響が強く、患者さんの約90%が喫煙者です。喫煙は肺がんのリスクとして知られていますが、実は、喉頭がんのリスクも高く、肺がんと喉頭がんを併発する方も多く見られます。現在、禁煙している方でも、昔喫煙の習慣があった方はリスクが高いと言えます。

他にも、ウイルス感染が影響してがんが発生することがあります。中咽頭がんでは、HPV(ヒトパピローマウイルス)が原因のものが半数に上りますし、上咽頭がんはEBウイルスへの関連しているものがあります。

「飲酒で顔が赤くなる人」は、のどのがんに要注意!

喫煙人口が減る中で、今、特に注意してほしいのは、お酒による害です。アルコールは消毒液に使われますよね。アルコールはそれほど強い物質です。アルコールが体の中に入ると酵素で分解されますが、日本人はアルコールの分解酵素の働きが弱い人が多いので、毒性の強い中間代謝産物(アセトアルデヒド)が長く体に滞在することになります。このため身体の組織が慢性的な炎症を起こし、がん化しやすくなるのです。欧米人に比べて、下咽頭・食道の発がんリスクが特に高いのは、その為だと言われています。

日本人の中でも特に、「お酒を飲むと、顔が赤くなる人」は要注意!

顔が赤くなるのは、アルコールの分解酵素が弱いという表れです。アルコールによる発がんのリスクが高い体質と認識しましょう。もちろん、お酒の強い方も、量が増えればそれだけ発がんの可能性は高くなります。適量をしっかり守りしょう。

のどのがん【早期発見セルフチェック】

初期症状に気がつきにくい「のどのがん」だからこそ、セルフチェックが大切です。リスクが高い方もそうでない方も、一度は確認してみてください。

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【1〜4に1つでも当てはまった方】
がんの可能性があるので、かかりつけの耳鼻咽喉科や、大きな医療機関の耳鼻咽喉科・頭頸科外科を受診しましょう。頭頸科外科は、口の中やのどのがんをメインに診療する科で、大学病院や大きな総合病院で開設されています。

【5〜10に1つでも当てはまった方】
「のどのがんのリスクが高い」方です。予防を心がけるとともに、定期的に上のチェックリストの1〜4の症状に当てはまることがないかチェックをしておくことをお勧めします。

のどのがんに対して理解は深まりましたか?

次の記事では、のどのがんの検査方法や、進行度別の治療法、また、予防方法などについて詳しくお伝えします。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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