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2021.09.13

ワクチン接種後の血栓リスク、感染したときのリスクと比べると?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナワクチンの副反応で、血栓症が起こることがあるのだとか。特にアストラゼネカ社のワクチンで多く起こるようですが、感染したときの血栓リスクと比べるとどちらが高いのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2021年8月26日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスワクチンの合併症としての、血栓塞栓症のリスクと、実際の感染との比較を行なった論文です。

▼石原先生のブログはこちら

副反応の一つである血栓塞栓症のリスクとは?

新型コロナウイルスワクチンの有用性は、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンと、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンについては、精度の高い臨床試験と実際の臨床データにおいて、現時点ではほぼ確立したといって良いと思います。

ただ、頻度は少ないものの幾つか因果関係の否定出来ない、有害事象や副反応も報告されており、中でも問題視されているものの1つが、特にアストラゼネカ社ワクチンで多いとされる、血栓塞栓症です。

アストラゼネカ社とファイザー社のワクチンの副反応を調査

今回のデータはイギリスにおいて、29121633回のファイザー・ビオンテック社およびアストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチンの初回接種後の副反応を解析し、1758095名の新型コロナウイルス感染者のデータと比較した、国レベルの大規模なものです。

その結果、アストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日の、血小板減少症の発症リスクは、1.33倍(95%CI:1.19から1.47)有意に増加していました。一方で新型コロナウイルス感染確認後8から14日の、同様のリスクは5.27倍(95%CI:4.34 から6.40)でした。

またアストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日の、静脈血栓塞栓症の発症リスクは、1.10倍(95%CI:1.02から1.18)有意に増加していました。一方で新型コロナウイルス感染確認後8から14日の、同様のリスクは13.86倍(95%CI:12.76から15.05)でした。

ここまではファイザー・ビオンテック社ワクチンでは、リスクの有意な増加は見られていません。

ワクチン接種後は脳梗塞や脳静脈洞塞栓症の発症リスクが上昇

ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日の、動脈血栓塞栓症の発症リスクは、1.06倍(95%CI:1.01から1.10)有意に増加していました。一方で新型コロナウイルス感染発症後15から21日の、同様のリスクは2.02倍(95%CI:1.82から2.24)でした。

また、脳静脈洞塞栓症の発症リスクが、アストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日で、4.01倍(95%CI:2.08から7.71)、ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日で、3.58倍(95%CI:1.39から9.27)、いずれも有意に認められました。

一方で実際の新型コロナウイルス感染時には、診断(検査施行)時点で115.70倍のリスク増加が見られています。

脳梗塞(虚血性梗塞)の発症リスクは、ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日で、1.12倍(95%CI:1.04から1.20)有意に認められましたが、それ以外の期間では有意な増加はなく、実際の新型コロナウイルス感染時には、診断(検査施行)時点で23.55倍のリスク増加が見られています。

心筋梗塞の発症リスクについては、ワクチン接種後のいずれの期間、どちらのワクチンにおいても、有意な増加はありませんでした。

接種後は一時的に血栓リスクが高まるが、感染した時に比べると低リスク

このように、新型コロナワクチン接種後に、一時的に血栓塞栓症の発症リスクが増加することは、その時期にもよりますが、今回の大規模な検証においても確認されています。

確かに血小板減少症と静脈血栓塞栓症に関しては、アストラゼネカ社ワクチンでのリスク増加が、ファイザー・ビオンテック社ワクチンを上回っていますが、動脈血栓症など、ファイザー・ビオンテック社ワクチンにおいても、リスク増加が病態によっては認められています。

これらはいずれも新型コロナウイルス感染症の合併症としても、見られる所見で、遺伝子検査施行とワクチン接種を基準時とした今回の検証では、同じ時期でも差はそれほどないようにも思えますが、実際には検査施行時点で合併症は確認されることが多く、トータルでは数十倍から時に100倍以上、実際の感染時の方がそのリスクは増加していました。

ぜひ、ワクチン接種を優先して

従って、現状市中感染の状態にある場合には、副反応として一定の血栓症リスクがあっても、ワクチン接種を優先させることは妥当であると、そう考えて良いと思います。

その一方で副反応のリスクについては、より丁寧にアップデイトしつつ、接種予定者には伝える必要がありますし、接種後のフォローにも慎重を期する必要があると思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36