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2021.08.26

妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種は安全か?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナのワクチン接種者は着実に増えていますが、安全性が不安で接種を差し控えている妊婦さんも多いそうです。妊娠中のワクチン接種は安全なのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2021年4月21日ウェブ掲載された、妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの安全性についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

妊娠中のワクチン接種は安全なのか?

妊娠中のワクチン接種の安全性というのは、非常に微妙な問題で、簡単にその善し悪しが明言出来るようなものではありませんが、何故か最近のメディアでは、「妊娠中のワクチン接種を断られた」というような、妊娠されている女性の声が、頻繁に取り上げられていて、ワクチンの接種をしない医療従事者や行政の担当者を非難する意見が「正義」として紹介されています。

それを受けてということなのか、日本産婦人科学会も8月14日に「妊産婦のみなさまへ」という声明を出していて、そこには妊娠の時期に関わらず、ファイザー・ビオンテックもしくはモデルナ社の新型コロナウイルスワクチンの接種を、強く推奨するものになっています。

ただ、実際にそこで根拠として引用されているのは、査読を受けた論文としては今回ご紹介するものだけで、それ以外はアメリカなどの関係機関の提言のみです。

妊娠中にワクチン接種をした3万人以上の方を調査

上記論文は2020年12月14日から2021年2月28日に、妊娠中でワクチン接種を受けた、トータル35619名の妊娠経過と副反応の有無を検証したアメリカの疫学データで、それによると接種部位の痛みは妊婦の方がより多い傾向があった一方、頭痛、筋肉痛、寒気、発熱については、妊婦の方が少ない傾向が見られています。

妊娠の経過を観察した3958名中、全妊娠経過が判明しているのは827名で、そのうちの13.9%に当たる115名は、死産もしくは流産になっていて、86.1%に当たる712名は出産しています。流産した104名のうち大多数の96名は、妊娠13週未満での流産でした。

一方で出産した712名のうち大多数の700名は、妊娠28週以降に初回のワクチンを接種していました。

安全性は検討中だが、明確な悪影響はなさそう

今回のデータでは、実際にコントロールと妊婦のワクチン接種後の予後を比較している訳ではありませんが、通常の妊娠経過との比較において、妊娠中のワクチン接種は明確な悪影響を来してはいないと判断されています。

ただ、出産した事例の多くは妊娠の比較的後期に接種されていて、妊娠初期の接種が流早産の増加や胎児奇形の増加に繋がっていないと、明確に言い切ることは難しいと思います。

上記の論文においても、この知見で妊娠中のワクチン接種の安全性が実証された、というようなことは書かれていません。それは敢くまで検討中の事項なのです。

産科の主治医のワクチン許可があると安心

現時点での個人的な考えとしては、妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの接種は、出産直前や妊娠早期(12週前)以外であれば、本人の意思により接種可としていますが、妊娠12週前や出産直前では、場合により妊娠経過に影響を与えるリスクが高いと判断して、産婦人科担当医の許可を求める方針としています。

妊娠中のワクチン接種は、それ以外の条件での接種と、そのリスクにおいて同じとは言い切れないと思うのですね。従って、通常のワクチン接種とは、やはり分けて考えるべきではないかと考えます。

集団接種会場でたとえば問診の内科医が、その場でその可否を判断せよ、というのは、無理筋ではないかと個人的には思います。

産婦人科学会もワクチン推奨の提言を出すのであれば、産科主治医がワクチンを許可する旨の文書を作って、それを集団接種時に添付するような仕組みを作って欲しいと思います。そうした具体的な取り組みがあれば、混乱は防げるのではないでしょうか?

妊婦さんが安心してワクチン接種をできる取り組みを

これはまた別の試みですが、たとえば品川区では、妊娠されている女性専用の接種機会が設けられるようになっています。それほど日数は多くないのですが、産婦人科医が問診を行なうという態勢になっているようです。

出来ればこうした機会をより多くして頂いて、妊娠された女性が安心してワクチン接種を受けて頂くような、そうした取り組みに繋げて頂きたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36