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2021.10.06

物忘れが多くなっていませんか? ”認知症予備軍”「軽度認知障害」(MCI)とは?【軽度認知障害・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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「忘れ物が多くなった」「最近、人の名前が出てこない」と、加齢とともに多くの人が口々にいいます。それでは「歳相応のもの忘れ」と「軽度の認知症」とは何が違うのでしょうか?どんな兆候があれば、病院に相談すべきなのでしょうか? 

高齢化社会の進行とともに増え続ける認知症患者ですが、予防のカギは「軽度認知障害(MCI)」の状態にいかに早く気がつけるかです。この段階で対策をしていけば、認知機能の向上が期待できると今世界的に注目が集まっています。

今回の記事では、ご自身の将来のため、またご家族のためにも知っておきたい「軽度認知症」の基礎知識をお伝えします。お話を伺ったのは、筑波大学名誉教授の朝田隆先生です。

朝田 隆(あさだ・たかし)先生

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筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学客員教授、医療法人社団創知会理事長

【プロフィール】
1982年東京医科歯科大学医学部卒業後、1982年石川県芦城病院、1983年東京医科歯科大学神経科精神科に勤務後、1988年英国オックスフォード大学老年科へ留学。1995年国立精神神経センター武蔵野病院精神科医長、2000年同院リハビリテーション部長、2001年筑波大学臨床医学系精神医学教授、2014年より東京医科歯科大学医学部附属病院特任教授を経て、2015年4月より現職。著書に「効く!「脳トレ」ブック」(三笠書房、2016)専門医が教える認知症(幻冬舎、2016)などがある

40代から始まる人も!?軽度認知障害(MCI)とは?

軽度認知障害(MCI=Mild Cognitive Impairment)とは、認知症ほど認知機能が低下しているわけではないけれど、年相応の変化とも言い難い状態。つまり「正常な状態と認知症の中間」を指します。物忘れの自覚があるが、記憶力の低下以外には明らかな認知機能の障害がみられず、日常生活への影響はあまりない「自立が出来ている状態」です。

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MCIを放置すると、認知機能の低下が続きます。MCIから認知症に症状が進展する人の割合は年平均で10~15%。4年後には約50%が認知症を発症するといわれています。どの認知症でも一度発症すると、あと戻りはできません。しかし、認知機能がやや低下した程度のMCIの段階なら、脳にはまだ余力があります。適切な対策を打てば、4人に1人は回復することが可能と言われています。つまり、「MCIを早期発見し、対策を行う事」が大切です。

認知症と「単なる物忘れ」の違いは?

認知機能の低下を実感しやすいのが、記憶力の低下です。年齢が高くなるにつれて、多くの方は「物忘れが増えた」と感じるようになります。「新しいことが覚えられない」というのもよくあることです。しかし、あまりに頻繁であったり、「普通なら決して忘れない事」を忘れるようになってきたら要注意です。

例えば、結婚式の披露宴に出席した後に、「スピーチをした人は誰だったかな?」「食事はフランス料理だったかな?和食だったかな?」と一部の記憶がはっきりしないのは、普通の物忘れです。一方、「披露宴なんてあったっけ?」といった、忘れるはずのないエピソードがごっそり抜け落ち、教えてもらっても思い出せなくなるような状態は、認知症の特徴的な物忘れです。年のせい、疲れのせいと誤魔化さず、現状を正しく把握することが大切です。

個人差があるのはなぜ?

通常は、高齢になっても日常生活を送る程度の認知機能は保持されます。その一方、急速に認知機能が低下し認知症になってしまう人も。その差はどこから来ているのでしょうか?

認知症は、認知機能を司る神経細胞が大量に死滅し、脳が萎縮して日常生活に支障をきたす病気です。大脳皮質だけで約140億個ある脳の神経細胞は、健康な人でも加齢とともに減少していくので、年をとるに従って、忘れが増え、判断力、理解力が低下するのは仕方がないこと。しかし、生活のなかで脳によい刺激が伝わると、新しい神経細胞が増えることもわかっています。したがって、「普段から頭をフルに使って、恒常的に脳に刺激を与え続けてきたかどうか」で個人差が出てきます。このような考え方を「認知予備能仮説」といいます。

他にも、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が認知症のリスクを高めるとわかってきているため、長年の生活習慣が関係しているとも考えられていますし、遺伝的な背景もあります。

認知症のリスク因子は?

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認知症のリスク因子は多岐にわたりますが、今、一番大きなリスクだと言われているのは、中年期(40歳〜)からの「難聴」です。難聴があると、脳に入る刺激が大幅に減少するため、その事自体が認知症を悪化させます。それだけでなく、耳が遠くなると、どうしても他人との会話や交流を避けがちになるため、社会活動の減少や引きこもり、運動不足などにつながりやすく、認知症のリスク因子が増える「負のスパイラル」に陥りやすくなります。

また、不健康な生活による、糖尿病、高血圧、高コレステロール、喫煙なども、適切にコントロールしないと、脳の血管に障害が起きやすくなり、認知症リスクが高まる事もわかっています。60歳以上の糖尿病の人がアルツハイマー型認知症を発症するリスクは、血糖値が正常な人に比べ2.1倍。血管性認知症を発症するリスクは1.8倍です。

「親が認知症だと、自分もいずれ認知症になるのでは?」と心配される方がいます。確かに、遺伝的な素因はあるといわれていますが、必ず発症するものではありません。他のリスク因子を避けることに努めていきましょう。

長期の自粛生活が、認知症のリスクを上げている

そして今、新型コロナウィルス感染症に対する恐怖心から、介護サービスの利用控えや、外出自粛をされている方がたくさんいらっしゃいます。また、日々メディア等を通して新型コロナウィルス感染症に関する多くの情報に接する中、本人やご家族の中に不安が増大し、大きなストレスを抱えている方もいるでしょう。

2020年12月に広島大学と日本老年医学会の研究内容では、研究対象となった医療・介護施設から認知症の方のさらなる「認知症症状の悪化」や「身体機能低下」、さらには「抑うつの発症」などのリスクが高まっているという報告が上がってきています。

この影響は、もちろんMCIの段階の方にも同様に影響があると考えられています。

MCIのうちに、正しい対処をすることが大切!!

今の自粛生活は、認知症やMCIの方にとって、厳しい状況下にはあると言えますが、MCIのうちに対策を行えば、およそ4人に1人は回復することが可能です。認知症は、一度発症すると後戻りはできません。そのため、健康なときから対策を行うことが最善策。その対策は、全身の健康にもつながりますから、実践しない手はありません。

後編の記事では、早期発見「MCIセルフチェック」と、すぐに始められる対策を詳しくお伝えします。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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