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2021.08.01

デルタ株に対する新型コロナワクチンの効果とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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第5波と言われるほど、また感染が拡大してきた新型コロナウイルスですが、現在主流なのはデルタ株と言われる変異株。これにはどれくらいワクチンが効くのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Lancet誌に2021年6月26日掲載された、デルタ株に対する新型コロナワクチンの有効性についての解説記事です。

▼石原先生のブログはこちら

現在主流のデルタ株とは?

新型コロナワクチンの接種は世界的に進行していますが、最近危惧されているのは複数の遺伝子が従来型から変異していて、その性質自体が変化したウイルスが従来型に置き換わって感染を拡大する、いわゆる変異株の問題です。

特にインドで最初に感染拡大が報告されたB1.617.2変異は、WHOの呼称では「デルタ株」と呼ばれていますが、若年者に対する感染力と重症化率が高いとされ、世界中で深刻な問題となりつつあります。

日本においても、正確な疫学データはないので不明な点が多いのですが、東京においてはB.1.1.7変異(アルファ株、以前の英国型)から、デルタ株へ主体の流行に切り替わりつつあると想定されています。

デルタ株について問題となるのは、現状使用されているワクチン、特に有効性が高いファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンがどの程度の有効性を示すのか、と言う点です。

アルファ株については従来型よりは劣るものの、それほどは遜色のない有効性がイギリスの疫学データからは確認されています。ただ、デルタ株に対する有効性については、データが乏しいのが実際なのです。

重症化のリスクが高いデルタ株

今回紹介されているのはスコットランドにおける疫学データで、スコットランドにおいてはアルファ株主体の流行から、現在はデルタ株主体の流行に置き換わっているようです。

これは全て遺伝子解析をして確認したデータではなく、RT-PCR検査における、その反応のパターンの違いからの推測で同定しているものですが、全例に近い検証が行われている点がポイントです。

そこからの検証では、デルタ株の感染により入院するリスクは、アルファ株と比較して1.85倍(95%CI:1.39から2.47)有意に増加していました。つまり、アルファ株と比較して、デルタ株による感染は重症化のリスクが高いことを示唆するデータです。

mRNAワクチン以外の有効率は低め

ワクチンの有効率について現時点の情報で解析すると、2回目接種から14日以上経過した時点で、ファイザー・ビオンテック社ワクチンの遺伝子検査で診断された新型コロナ感染予防効果は、アルファ株に対しては92%(95%CI:90から93)、デルタ株に対しては79%(95%CI:75から82)と算出されました。

これは主に有症状感染の予防効果と同義と思われます。

一方でアストラゼネカ社ワクチンの同様の予防効果は、アルファ株に対して73%(95%CI:66から78)、デルタ株に対しては60%(95%CI:53から66)と算出されています。

このように、ファイザー社のワクチンに関してはデルタ株に対しても一定の有効性が保たれている一方で、mRNAワクチンの以外の有効性については、甚だ心許ないというのが現状です。今後変異株に対するワクチンの製造が急務であるとともに、多くのワクチンをどのように使い分けるのか、そしてどのような効果を期待するのかについては、より詳細かつ実践的な検証が急務であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36