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2020.09.19

情報とどう向き合えばいい?コロナ問題から考える情報リテラシー前編

kencom公式ライター:松本まや

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新型コロナウイルスの感染が広がり続ける中で、「トイレットペーパーが品薄になる」「うがい薬が予防に効果的」といった情報によって、あっという間に買い占めが起こってしまうなど、真偽が確かでない情報が大きな影響力を持ってしまう問題が頻発しています。こういった現象は日本に止まらず、海外では命に関わるような偽情報が出回り、深刻な問題となっています。

情報が入り乱れる中で、私たちはどのように情報の真偽を判断し、行動するべきなのか。情報リテラシー、メディアリテラシー教育を専門とする、法政大学キャリアデザイン学部の坂本旬教授に解説していただきました。

情報リテラシーの基礎知識。メディアリテラシー、情報リテラシーとは

情報リテラシーとはどんな能力のことか

情報リテラシーとは、「情報にアクセス、評価、整理、利用、交流する能力」のことです。元々は図書館を活用する能力のことを示していましたが、今では対象が広がり、インターネット上での情報収集も含んでいます。

よく混同される言葉で、「メディアリテラシー」という言葉がありますが、意味は少し異なっており、「メディアのメッセージを批判的に読み解き、創造する能力」のことです。つまり、どのような考え方や背景があって、メディアの映像が発信されているのかを見抜く力のことです。かつてはテレビで放送された映像のメッセージを読み解く力のことでしたが、インターネットの普及に伴い、ソーシャルメディアも含むようになりました。源流はイギリスですが、カナダやアメリカでメディアリテラシー教育が生まれ、世界中に広がっています。

文字情報に焦点を当てている情報リテラシーとは少し異なるものですが、どちらも非常に重要視されており、「メディア情報リテラシー」として呼ばれることもあります。

爆発的に情報量が増えたインターネット、「英語中心の世界」という側面も

米国IT大手シスコ(Cisco)によると、インターネットが登場した1984年、1ヵ月あたりのインターネットの情報流通量はわずか17ギガバイトでした。2020年現在、1217億ギガバイトに増え、2021年にはさらに2.3倍になるとも言われています。ITU(国際電気通信連合)によると、2019年時点で、世界の人口の53%にあたる約40億人がインターネットを利用しています。

分からないことがあればスマートフォンで検索することが一般的になり、どのような情報にもアクセスできるような錯覚を覚えてしまいそうになりますが、インターネット上の情報の多くは英語です。日本語の情報はわずか数%で、発展途上国での普及率はまだまだ低いところも多くあります。インターネット上の情報が全てではなく、偏りがあるのです。

欧米で注目が高まる「メディア情報リテラシー」教育

2016年11月にトランプ大統領が当選したアメリカの大統領選挙の前後、「フェイクニュース」の問題が盛んに取り上げられていたことは記憶に新しいでしょう。BuzzFeed Newsの調査結果では、大統領選挙期間の最後の3ヵ月間、Facebook上では虚偽の情報の方が、正しい情報より多くの「いいね」を獲得しており、人々の関心を集めていたことが分かりました。

ヨーロッパでは、シリアを始めとする中東やアフリカからの移民が増加するにつれて、極右団体や極右政党の支持率が高まり、恣意的な情報発信に基づくヘイトスピーチの問題も深刻化しています。こういった背景に加え、今年は新型コロナウイルスに関する偽の情報が世界中で出回っていることもあり、情報リテラシー教育への関心が高まっています。UNESCO(国際連合教育科学文化機関)も重視しており、近年啓蒙活動に力を入れています。

社会的不安の中での人間の心理状態

新型コロナウイルスの感染が世界的に広がる中、「新しいウイルス」である故にまだ分かっていないことも多く、様々な情報が入り乱れています。このような社会不安の状況下で、人はどのように情報を受け止めるのでしょうか。

危機的状況で陥りがちな「認知バイアス」とは

心理学では、環境や常識の影響で、先入観により受け取り方が偏ったり、判断がゆがめられたりすることを「認知バイアス」と呼びます。社会不安が広がっていると、通常と比べ人は認知バイアスに陥りやすくなります。中でも知っておいてほしい重要なものが「確証バイアス」と「正常化バイアス」です。

確証バイアスとは、先入観に基づいて自身に都合のよい情報だけを集めてしまうバイアスです。誰もが自分の考え方や信念を持っていて、それに反する情報を受け止めがたいと感じることがあります。確証バイアスがかかった状態では、公共機関の発信する情報など、通常であれば信頼性の高い情報でも疑わしく思えてしまうことがあります。誰でも陥るバイアスだということをまずは心に止めておき、自分の状態に自覚的になること、自分の力で調べてみて、間違いに気が付くことがとても大切です。

正常化バイアスは、災害時などによく見られるもので、「自分だけは大丈夫だ」と思い込んでしまうバイアスです。誰しも、客観的に見れば危機的な状況であっても、「自分だけは助かる」と思ってしまう傾向があります。

特に、自己評価の高い人や政治的に極端な思想を持っている人は、誤った情報を拡散してしまう傾向があることも指摘されています。詐欺やプロパガンダはこういった人間の心理を利用するものです。こういったバイアスの存在を意識するだけでも、自身が拙速に情報を信じてしまっていないか、気が付くきっかけとなります。

偽情報は、身近な人から悪意なく伝わることも

新型コロナウイルス感染症に関しては、「○○○が予防に役立つ」など根拠のない情報や誇張された情報がたびたび広がっています。感染拡大初期には、ウイルスが熱に弱く、「26~27度程度の湯で死滅」するとの偽情報が広がりました。

実はこういった情報は悪意を持って拡散されているとは限らず、むしろ「善意」で知人や友人を介して広がるケースも多いのです。誰が発信しているか分からない情報と比べ、身近な人の情報は信じやすい傾向があります。

信頼性の高い情報源とはどのようなものか

情報源の信頼性を意識する

情報が溢れかえっている中で、信頼性の高い情報源とはどのようなものでしょうか。
例え大手メディアであっても、公開しているすべての情報の信頼性が高いとはいえません。どのようなメディアなのか、どんな情報なのかを冷静に判断する必要があります。メディア側にも今、根拠のあいまいな情報をそのまま報じてしまうことのないよう、これまで以上に事実を正確に伝える姿勢が求められていますが、すべてを是正していくのは難しいでしょう。

大手メディアの誤報や、政治家による十分に確認されていない情報発信も実際に起こっています。どんな情報でも間違っている可能性があることを念頭に置いておくことが大切です。

数多ある情報ソースの中でも、公的機関や学会など専門団体のウェブサイトは社会的信頼性が高いと言えます。

不確かなネット情報に要注意

SNS上でも様々な情報が発信され、どれが正しいのかわからなくなってしまうことがあります。インターネット上の情報に惑わされないために、なぜその情報が自分の元に届いたのか、その仕組みを理解することが重要です。

簡単にアクセスできてしまうまとめサイトやトレンドブログなどは、既存のニュースをただまとめただけのものから、悪質なデマ情報を含むものまで様々です。こうしたサイトはクリックされることで、広告料を得て運用されているものが多くあります。検索して出てきた情報を無批判に受け入れるのではなく、どのような仕掛けで収益を上げているものなのか、この検索結果はどのように出現しているものなのか、考える習慣をつけておきましょう。

一人一人のリテラシーが高まることも大切

欧米では、大手メディアが情報リテラシーやメディアリテラシー教育に積極的に関与しています。日本ではまだその動きは大きくないですが、今後はメディアにとっても、正しい情報を読み取ることのできる読者を育てていくことが重要になってきます。

では、具体的に情報リテラシーはどのように身につけ、情報の真偽はどのように確かめていけばいいのでしょうか。
後編ではすぐに実践できる具体的なポイントを交えて解説していきます。

監修者プロフィール

坂本 旬(さかもと・じゅん)
法政大学キャリアデザイン学部教授(図書館司書課程)、同大市ヶ谷情報センター長。東京都立大学大学院教育学専攻博士課程中退。教育系出版社や週刊誌などの編集者、雑誌執筆者を経て、1996年より法政大学。アジア太平洋メディア情報リテラシー教育センター(AMILEC)・福島ESDコンソーシアム代表として、ユネスコのメディア情報リテラシー・プログラムの普及に取り組む。基礎教育保障学会理事。

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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