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2022.02.17

自宅で行う抗原検査。結果は信頼できるのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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自宅で新型コロナに感染したかどうかを検査できる、抗原検査キット。最近はドラッグストア等でも売り切れ続出でなかなか入手できない抗原検査キットですが、あまり信頼しすぎないほうがいいこともあるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2022年1月31日ウェブ掲載された、新型コロナの抗原検査を、家で施行する場合の問題点を、心理的な実験で検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

抗原検査キットでの検査は信頼できるのか?

現状新型コロナウイルス感染症の診断のスタンダードは、遺伝子の特徴的な部分を増殖して判定する「RT-PCR検査」です。

ただ、検査には時間がかかるため、迅速な診断には向いていないことが難点です。

抗原検査キットは、専用のキットを使用すればその場でも、簡単に結果が出せる点が利点です。

そのため、感染症の流行が拡大して、全ての感染者や感染が疑われる人が、医療機関や検査センターを受診して検査を受けることが困難な場合には、自宅で自分で検査をして、その結果を元にその後の方針を立てることが、国内外を問わず行なわれています。

ただ、抗原検査は万能ではありません。

検体の採取は通常鼻腔から行ないますが、鼻の中に綿棒を入れて自分で鼻水や粘液を採取することは、かなり抵抗のあることなので、鼻の中が乾燥していて傷みがあるような時には、検体が適切に採取出来ないこともしばしばあります。

また検査は一定の抗原量がないと陽性にはなりませんから、はっきり発熱などの症状がある時には、抗原量も多いことが多く、感染していれば陽性になることが多いのですが、無症状やそれに近い状態では、感染していても陰性になることも想定されます。

抗原検査は陰性でも、PCRで陽性になるケースも

実際クリニックにおいても鼻腔からの抗原検査では陰性で、それでも症状はコロナの可能性が高いというような事例で、RT-PCR検査を施行してこちらは陽性、というケースを多く経験しています。

従って、抗原検査は発熱などの症状があって感染機会もあり接触歴も疑われるような人で、陽性の結果が出た場合には、「ほぼ感染している」と判断して良いのですが、感染を疑わせる症状があっても陰性の場合には、感染の可能性が否定された訳ではないと考えて、適切な隔離や療養を行なう必要があります。

また、症状がなく感染機会も想定されない時に、抗原検査も陰性であれば、積極的に隔離を行なう必要はない、という判断は出来るのです。

それでは、一般の方が自宅で抗原検査を自分で行なった場合、どの程度適切な判断が下せるのでしょうか?

陰性だと隔離不要と判断する傾向にある

今回の研究はアメリカにおいて、18歳以上の360名の一般住民に、色々な条件で自宅で抗原検査を施行しそれが陽性だったり陰性だったりした時の、個人の反応をシミュレーションして検証を行っています。

実際に検査をするのではなく、たとえばワクチンを接種していなくて発熱した時に、抗原検査が陰性であったらどのようにしますか?というような質問に答えてもらうのです。

その結果、抗原検査が陽性、という情報があると、その状況が感染リスクが高いかどうか症状があるかどうかにはかかわらず、95%の方が自分は隔離が必要という判断をしていました。

その一方で、臨床的に感染リスクが高く、実際には検査が陽性であっても陰性であっても隔離が必要、と臨床的には思われるケースであっても、一旦検査が陰性という情報があると、何の指示も受けていない人の24%、公的機関の指導のみを受けた人の33%、より具体的な感染防御についての指導を受けた人でも14%は、隔離の必要性を認識していない、という結果が得られました。

つまり検査には限界があり、隔離の必要性の有無は、検査と臨床症状や感染リスクを総合的に判断した上で考えるべきだと、そうした説明を事前に受けていても検査が陰性であると、無視できない確率で隔離の必要性を否定する人が存在する、ということになります。

その一方で検査が陽性であると、指導を受けているかいないかに関わらず、大多数の人が隔離の必要性を理解して行動するようです。

検査結果が陰性でも感染対策は万全に

上記研究では通り一遍の説明ではなく、より具体的な感染防御についての指導を受けていると、検査陰性の感染者が感染を広げてしまう、というリスクを、一定レベルは回避出来ると想定されていて、そうした教育が感染防御には不可欠であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36