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2021.08.11

自粛生活で口に注意?健康寿命のリスクを高める口の老化とは【オーラルフレイル・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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長引く自粛生活により、人と話す機会が激減したことで、本来ならば会話の中で鍛えられる口腔機能が低下し、多くの人がオーラルフレイル(口腔機能の低下)になりやすい環境にあると言われています。オーラルフレイルは、口の中だけの問題と思われがちですが、放置しておくと要介護のリスクを高めるなど、全身の健康と密接に繋がります。

今回解説いただいたのは、東京歯科大学名誉教授の櫻井薫先生です。

櫻井 薫(さくらい・かおる)先生

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東京歯科大学名誉教授・こばやし歯科クリニック顧問

【プロフィール】
1978年に東京歯科大学卒業後、東京歯科大学大学院歯学研究科修了し、米国タフツ大学歯学部に2年間留学後、1997年に東京歯科大学の主任教授となる。
2019年に東京歯科大学を定年退職し、現職。

【受賞歴】
2016年日本老年歯科医学会老年歯科医学賞受賞 、日本補綴歯科学会学会論文賞受賞、2020年日本歯科医学会会長賞 、2021年日本老年歯科医学会学会功労賞、日本補綴歯科学会特別功労賞を受賞

オーラルフレイルとは?

「オーラルフレイル」とは、オーラル(Oral)=口、フレイル(Frailru)=虚弱を合わせた言葉で、健康と機能障害の間にあたる「口腔機能の低下」「口の老化」を指します。加齢とともに心身が衰えるように、口にも衰えがくるのです。

オーラルフレイルは、早い人では40代から始まると言われていますが、初期は自覚症状に乏しいため、ほとんどの方が気がつきません。しかし、放置をしていると、全身の体力、筋力の低下を招き、全身のフレイル(虚弱)に進みます。そうすると誤嚥性肺炎や認知症、転倒、骨折といった疾患・怪我を引き起こし、将来的には「要介護」になるリスクを2.4倍にもあげてしまう。口腔機能の維持は、健康寿命に欠かせない要素の一つです。

口腔機能の低下が要介護に繋がる理由

オーラルフレイルが、なぜ要介護を招くのかもう少し詳しくご説明します。

歳をとると手や足の筋肉が衰えるように、咬合力(こうごうりょく=噛む力)が衰えてきます。また、歯周病などで歯がぐらついたり、失われたり、噛み合わせが悪化することでも咬合力は衰えます。

噛むことが億劫になると、野菜や肉、魚などの固いものを避けるようになります。食事の多様性が失われ、うどんやおかゆといった柔らかい炭水化物ばかりとなって低栄養の状態が常態化します。その結果、全身の筋肉量が減少し、免疫力や気力が低下します。合わせて脳に伝わる刺激が少なくなり、脳の認知機能も低下していきます。
 
また、骨量が減ることに加え、加齢とともに抜けた歯をそのままにしていると、身体のバランスが崩れ転倒や骨折のリスクが高まり要介護になってしまう危険性が高くなります。このように、オーラルフレイルは単に口の中の老化というだけではなく、全身に負のスパイラルを引き起こすきっかけになるのです。

歯があれば大丈夫は間違い!舌の力を知ろう

歯と同等に重要な役割をしているのが「舌」です。

食べ物を口に入れると、甘い、辛いなどの味覚から、食べ物が硬いか、熱いかなどさまざまな情報を舌が感知します。そして、食べ物の状態を把握し、しっかりと噛まないといけないものは、舌が食べ物を奥歯の上に移動させ、上下の奥歯で細かく噛み砕きます。噛み砕かれた食べ物は、舌によって唾液と混ぜられ、喉の入り口に運ばれます。そして「飲み込む(嚥下)」ことで、食べ物は食道に送られます。このとき、舌の筋肉と繋がっている喉頭蓋(こうとうがい)という気道と食道を切り替える弁が、自動的に気道を塞がれることで食べ物が食道に送り込まれます。

この一連の働きの中で、鍵となる舌も年齢とともに衰えてきます。
舌が衰えると、飲み物や食べ物が間違って気道の方に入って、肺炎を起こす「誤嚥性肺炎」になったり、お餅などの固形物が気道に入って窒息することがあります。舌の衰えは命に関わる問題なのです。

コロナ禍で増えるオーラルフレイル

そして、今、外出自粛による生活習慣の変化で、オーラルフレイルのリスクが高まっていることが指摘されています。使わなければ口は衰えます。人との交流が減り、会話をする機会も減っているので、当然、頬や舌、口の周りの筋肉、また声帯の筋肉が衰えていることが考えられます。

また、友人や仲間との外食もし辛い状況なので、孤食も増えています。誰とも話さずに一人で黙々と食事をすると、よく噛まずに早食いとなりがちです。それにより、咀嚼筋の低下や、唾液の分泌の減少による自浄作用も低下するので、口の中の細菌が増え、虫歯や歯周病の悪化、口臭に繋がったりと口の機能が落ちやすくなります。まさに、私たちの新しい生活様式は、口の中の健康にとっても厳しいものと言えます。

早期発見!オーラルフレイルセルフチェック

こういった環境の中で、ご自身のお口の健康に自信がありますか?

オーラルフレイルの怖いところは、ほとんど自覚症状がないまま進行してしまうこと。統計では、50代からオーラルフレイルの人口は増えていくので、ご自身やご家族が、50代以上の場合は、下のセルフチェックで思い当たることがないかチェックしてみてください。

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いかがでしたか?上の8項目に1つでも当てはまったら、一度、歯科医院でオーラルフレイルのチェックをすることをお勧めします。

①硬いものが食べにくくなったのは、噛む力が衰えている表れですし、②汁物でむせるのは、飲んだものが本来入るべき食道でなく、気道に入りかけてしまい、これを吐き出そうと咳やたんが出るためです。これは、オーラルフレイルにより飲み込む力が衰えている力衰えている可能性を表しています。

また、オーラルフレイルになると、唾液の分泌量が減るので、③口が乾く④薬が飲み込めない⑧食べ物が口の中に残る、などの現象が起きます。また、⑤滑舌が悪くなるわけは、舌や口の周りの筋肉の低下。滑舌は本人では気がつきにくい場合もあるので、電話などで聞き取りづらくなってきたら、ご家族や周りの方が検査を薦めてあげると良いと思います。

オーラルフレイル改善&予防法は後半で!

そして、忘れていはいけないのは、「オーラルフレイルは可逆的である」ということ。つまり、オーラルフレイルの些細な症状に早めに気がつき、適正に対応していくことで、全身を健康な状態に近づける事ができるのです。

後半では、その具体的な対策を詳しくお伝えします!

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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