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2020.11.18

身体が衰えるとは?加齢とともに進むフレイルの知識【フレイル・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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病気や怪我をしてなかったとしても、誰もが歳をとるにつれて心身が衰えていきます。いわゆる「老化による現象」と考えられているものの、同じ年代・年齢であっても、日常生活を自分だけでこなせる人もいれば、介護を必要とする人もいて、身体能力の低下具合には個人差があります。

そこで、「介護状態になる前に予防ができないか」という考えから、近年、健康な状態から介護が必要な状態になる前の段階に「フレイル」という名がつけられ、医療の介入による早期対応ができないかが研究されています。

国立長寿医療研究センター理事長・荒井秀典先生より、高齢の方はもちろん、離れて暮らすご家族にも是非知ってほしいフレイルについて解説していただきました。

健康と要介護状態の間にある「フレイル」とは?

参考:国立研究開発法人 国立長寿健康医療センターHP

参考:国立研究開発法人 国立長寿健康医療センターHP

フレイルは、「介護が必要となる状態」と「健康」の間の期間。つまり、介護が必要とまではいかないけれど、様々な機能が衰えてきた状態とされています。

加齢に伴い筋力が衰え転倒しやすくなるなどの身体的な衰えだけでなく、認知機能が低下したり、気持ちが沈んだりする心理的な衰えや、人とのつながりが減って閉じこもったりする社会性の衰えなど、年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指しています。

脳疾患などの疾病や転倒などの事故により、健常な状態から突然要介護状態に移行することもありますが、多くの場合、高齢者はフレイルの時期を経て、徐々に要介護状態に陥ると考えられています。

原因は身近に。高齢になってからのちょっとした変化は要注意

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フレイルは、上記のような加齢に伴う心身の変化と社会的、環境的な要因が合わさることにより起こります。
見ていただくとわかる通り、健康的な生活になんらかの支障を来したり、肉体的な変化が起こることがわかっています。

フレイルの判断基準は?

参考:長寿医療研究開発費 平成26年度 総括報告書 フレイルの進行に関わる要因に関する研究(25-11) 国立長寿医療研究センター

参考:長寿医療研究開発費 平成26年度 総括報告書 フレイルの進行に関わる要因に関する研究(25-11) 国立長寿医療研究センター

フレイルの基準には、さまざまなものがありますが、上記のような評価基準がよく使われています。(2016年度に国立長寿医療研究センターで行われたフレイルの調査研究による評価基準)
上の5つの項目のうち、3つ以上該当する場合はフレイル。1~2つ該当する場合はプレフレイル。1~2つ該当する場合はプレフレイル。いずれにも該当しない場合は健常または頑健と評価されます。

フレイルにはどのようなリスクがあるのか?

フレイル期に入ると怪我や風邪の重症化リスクが上昇

例えば、健康な人が風邪をひいたり、熱を出したりしても数日すれば治りますよね?しかし、フレイル状態の方が風邪を引くと、こじらせて肺炎を発症し入院したり、その入院をきっかけに一気に寝たきりになってしまうなど、ちょっとした不調から思わぬ方向に向かうことがあります。

フレイル状態になると、身体能力は低下し骨折しやすくなったり、病気にかかりやすくなるだけでなく、何かストレスを受けた時に容易に要介護状態になってしまう危険性があるのです。

どのように進行する?

参考:健康長寿ネット

参考:健康長寿ネット

加齢に伴う変化や慢性的な疾患によってサルコペニア(筋肉の衰え)となり、筋肉量・筋力の減少によって基礎代謝量が低下すると、1日のエネルギー消費量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少して低栄養となります。また、サルコペニアによって身体機能が低下すると、転倒や骨折の危険が増えたり、疲れやすくなるなど、ますます活力が低下して社会的な側面にも障害をきたします。そのため、認知症のリスクが高まったり、うつ傾向が増加したりし、日常生活に支障をきたすようになります。

日常生活に介護が必要な状態となると、ますますエネルギー消費量は低下します。その結果、食が細くなり、さらに低栄養となる「悪循環」を繰り返しながら、フレイルは進行していきます。

フレイル状態を改善することができるのか?

一方で、フレイルは、「早く気がついて適切な対策を行えば、進行を遅くしたり、再び元気な状態に回復することができる」という特徴があります。最近歩く速度が遅くなった、疲れやすくなったなどという症状は、「歳のせいだ」と見過ごしがちですが、この時期に対策をせずに見過ごしていると、要介護の状態へ進行するリスクが、5倍〜7倍ほど高くなると言われています。

一度、要介護の状態になってしまうと、健康な状態に戻るのは非常に難しいものです。しっかりと「フレイル」のサインを意識して、いち早く適切な対策を行うことが、要介護になるのを予防し、健康寿命を伸ばすことに繋がるのです。

フレイルが疑われたら医師に相談できるのか?

「老年病専門医」の資格をもつ医師がいる病院で、治療を受けていただくのが理想的です。しかし、残念ながら現段階では全国に専門医がいるわけではありません。今、日本全国どこにいても同じ治療を受けられるよう「老年病専門医によるオンライン診療」の仕組みを急ピッチで準備しています。将来的には、専門医とそれぞれの地域のかかりつけ医が連携して、全国どこにいても高齢者が適切な医療が受けられる環境を目指しています。

こちらから、全国の「老年病専門医」の資格をもつ医師を検索できます

医療機関ではどのような治療を受けられるのか?

フレイルの医療介入の基本は「運動指導」と「栄養指導」の2つの柱です。必要に応じて、専門医による診察、栄養士による栄養指導、理学療法士・作業療法士によるリハビリテーションを行うなど、チームで治療をしていきます。フレイルは多面的な要因が絡み合っているため、目立って表に見えている一つの症状だけで判断するのでは、全体に起こっている問題を捉えきれない恐れがあります。そのため、身体機能、認知機能、生活活動、精神面、栄養状態、周囲の環境など、色々な角度から評価して治療を進めます。

必要があれば、薬剤師による服薬指導や、口の中のケアを行います。また、社会的な支援が必要な場合は、看護師による訪問看護、ヘルパーによる訪問介護など、他職種との連携によって予防を意識した包括的なケアも行っていきます。

今日から出来るフレイル予防は次の記事で!

フレイルは、薬を飲めば治るような病気ではありません。ご自身がしっかりと納得して、積極的に生活を変えていただかないと治らない病気です。フレイルで重要なのは、早い時期に兆候を見つけて適切な対応をとれば、心身機能の低下を遅らせたり、健康な状態にもどしたりできるということです。ぜひ、次の記事でご紹介するフレイルチェックと予防方法を実践して、健康な毎日を過ごして欲しいと思います!

荒井 秀典(あらい・ひでのり)先生

国立長寿医療研究センター 理事長

【プロフィール】
1984年 京都大学医学部卒
1991年 京都大学大学院博士課程修了
専門領域:老年医学一般、フレイル、サルコペニア、脂質代謝異常
専門技術・資格:日本老年学会理事長、日本老年医学会副理事長、日本サルコペニア・フレイル学会代表理事、Chairman of Asian Working Group for Sarcopenia、Vice President of Asian Association for Frailty and Sarcopenia、President of Asian Academy for Medicine of Ageingなど多数
著書:フレイル診療ガイド編集、サルコペニア・フレイル学会指導士テキスト編集、診療ガイドラインUp-To- Date分担執筆

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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