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2021.10.07

管理栄養士が伝えたい。一生ハツラツと生きるために知っておきたい「フレイル」の話

kencom公式:管理栄養士・前田 量子

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人生100年時代の到来といわれるように、日本は世界でもトップクラスの長寿国です。しかし、寿命=健康で過ごせる期間ではありません。

寿命以外に忘れてはいけないのが「健康寿命」です。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされていて、起床、衣類着脱、食事、入浴などに制限がない期間。つまり、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。
「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」によると、平均寿命と健康寿命には男女平均して約10年の差があることがわかっています。いくつになってもハツラツと過ごすためには、健康寿命をのばすことが大切になります。

老後の暮らしを左右する「フレイル」

「フレイル」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

フレイルとは、歳を重ねるにつれ、心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下した状態をいいます。虚弱になった状態を Frailty(フレイルティ)と言い、そこから「フレイル」と呼ぶことを日本老年医学会が提唱し広まりました。

この「フレイル」は健康と要介護の中間のことで、早めに発見し、適切な対応を行うことにより改善できる状態を指します。

健康寿命の点で注目高まる

フレイルの予防は、健康寿命を伸ばすことにつながるキーワードとしても注目されています。

厚生労働省が5年ごとに出す「日本人の食事摂取基準」(私たち日本人が、どんな栄養素をどれだけとれば良いかを示すもの)の最新2020年版では、新たに高齢者の低栄養予防・フレイル予防も視野に入れて策定されたことでも話題になりました。
それほどフレイルは注目されているキーワードなのです。

3つのフレイル

フレイルには大きく3つの柱があります。

これらは相互に密接に関係し合っていて、どれかひとつでも該当するとそれが引き金となり、他の2つのフレイルにもなっていくことがあります。

身体的フレイル

低栄養などによって筋力が低下し、身体機能が衰えたり、その結果活力が低下すること。

精神的フレイル

認知機能の低下や精神的な活力の低下のこと。気分的なうつ状態になること。

社会的フレイル

周囲との関係やサポートがない孤立した状態になってしまうこと。

例えば、歳を重ね消化機能が低下することでタンパク質不足などの低栄養になることがあります。
栄養不足で身体機能が衰えると、外出するのがなんとなく億劫になってしまうということにつながります。すると会話量が減り、喉を含む筋肉の減少を引き起こし、食事を飲み込みにくくなり、より食べやすいものを好むようになります。
結果、より筋肉が衰えていき低栄養になっていく。

このように、ひとつのことが引き金でどんどん他の事も悪化していく、負のスパイラルに陥りやすいのがフレイルの特徴です。

フレイルを改善する3つのポイント

フレイルを予防・改善するためには、以下でご紹介する3つのポイントをバランスよく実践することが大切です。

1.栄養バランスの良い食事・口腔環境を整える

食事は活力の源。バランスのよい食事を3食しっかり摂ることはもちろんですが、美味しいものを長く食べ続けられるように、お口の健康(口腔環境)にも気を配ることが大切です。

2.適度な運動で健康な身体を維持する

適度な運動で身体を動かすことは、筋肉の発達だけでなく食欲や心の健康にも影響します。もしかしてフレイルかも、と感じたら、今より10分多く身体を動かすよう心がけましょう。

3.外出や人と接する機会を増やし社会とつながりをもつ

趣味やボランティア、地域活動などを通じて社会とのつながりを持つことが大切です。無理をせず、自分に合った活動を見つけることが大切です。

中でも、2と3の活力を生むために大事なのが、1の「栄養バランスの良い食事・口腔環境を整える」です。ここではフレイル予防のための食事について説明していきましょう。

フレイル予防の食事術

以前コラムにも書きましたが、シニア世代の食事において一番の課題は「低栄養」です。

食事の支度が面倒になったり、食欲の低下が重なることで、お茶漬けや蕎麦、うどんなど、口当たりの良い簡単な食事になりがちに。その結果、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素が十分摂取できず低栄養に陥ることがあります。そして、骨量や筋肉の減少、体力低下などにつながり悪循環になってしまいます。

低栄養を予防するためには、まずは毎日の食事の中で、次の4つを心がけましょう。

3食しっかり食べる

朝食を抜いたりしていませんか?また、どんな食材をどれくらい食べれば良いかご存じでしょうか。

3食しっかり食べるとして、理想は1食に肉・魚・豆腐・卵などのタンパク質を100g、野菜(できるだけ色の濃いもの)を120g、そして主食はご飯なら男性は200g/女性は150gです。
それでもカルシウムなどが不足気味なので、おやつに乳製品と果物を組み合わせ補給します。

これを昼と夜の2食で賄うのはとても大変。だからこそ3食しっかり食べることが大切なのです。

1日2回以上、主食・主菜、副菜を組み合わせて食べる

前述したように、理想的な食事はしっかりと野菜とタンパク質をとること。簡単な丼物やうどんなどではバランスよく栄養を摂りにくいことがお分かりいただけると思います。

毎日3食必ず、となると気が重いかもしれませんが、うち2回は主食主菜副菜を組み合わせて食べるように心がけましょう。

色々な食品を組み合わせる

それぞれの食品に含まれる栄養素はひとつではありません。色々な食品を組み合わせることで、多様な栄養素を摂取できます。できるだけ栄養価の高い食品を組み合わせることも大切です。

タンパク質を意識する

栄養素でいえば、特にタンパク質を摂るように心がけてください。

タンパク質は筋肉の原料。摂取量が少なくなると筋肉量が減少してしまうため、身体的フレイルにつながります。コーヒーを飲む時は牛乳や豆乳をプラスしてカフェオレにする、間食はヨーグルトやチーズを選ぶなど、日ごろからタンパク質を含む食品を意識してみてください。

フレイルは改善できる

フレイルはまだまだ健康に戻れる状態の事。早く気づいて、改善し、いくつになってもハツラツと過ごしたいですね。

次回は口腔機能のフレイル「オーラルフレイル」について詳しくお話しします。

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前田 量子(まえだ・りょうこ)

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管理栄養士 野菜ソムリエ ロジカル調理研究家。
著書『ロジカル調理』『ロジカル和食』『考えないお弁当』をはじめ、最新著書『おうちで一流レストランの味になるロジカル洋食』(全て主婦の友社)が好評発売中。調理科学で普段のもやもや悩みをすっきり解決 。スーパーの食材で本当に美味しく&家族が楽しみにしてくれる定番家庭料理を作れるようになる料理教室主宰。

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