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2021.05.20

マンモグラフィのメリットとデメリット【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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40代以上の乳がん検診ではマンモグラフィがよく選択されますが、がんではないのにがんと診断されてしまうことも多いのだそう。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に2021年5月1日掲載されたレターですが、アメリカの乳癌検診のガイドラインと、それが実際に守られているのかを検証した内容です。

▼石原先生のブログはこちら

マンモグラフィ検診の問題点とは?

現時点で乳がんによる死亡リスクの低下が、実証されている検診は、マンモグラフィ検診のみです。これは乳房を押し潰すようにして撮るレントゲン検査ですが、1回最低でも0.1ミリシーベルト程度の、放射線の被ばくを伴います。

高齢者のように乳腺が減少して、繊維に置き換わっているような乳房では効果的なのですが、若年者で乳房が発達していると、乳腺組織の乱れとがんとの鑑別は困難になり、診断能は低下するのが一番の問題点です。

多くの大規模な臨床試験などの解析によると、マンモグラフィによる乳がん検診が最も有効なのは、60歳代の対象者に施行した場合で、この年齢層の検診では、乳がんの死亡リスクを3割以上低下させています。

その次に有用性が高いのは、50歳代と40歳代で、いずれも15%程度、乳がんによる死亡リスクを低下させています。75歳以上では、検診の効果は確認されていません。

40代のマンモグラフィ検診は偽陽性が多い?

そうなると、40歳から74歳まででマンモグラフィの検診が有効、ということになるのですが、40歳代の検診をどう評価するかについては、議論があります。

アメリカにおいては、乳がんの発症率は40歳代より50歳代の方が多く、その検査の偽陽性、すなわち、異常所見がマンモグラフィで検出されたけれど、実際にはがんではなかった、という事例の多さが問題となります。40歳代ではより乳腺の密度が高いので、検査の正確性は50歳代より劣っているのです。

このため、2016年に改訂された、アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)による、現時点で最新の乳がんスクリーニングのガイドラインでは、50から74歳で2年に一度のマンモグラフィ検診を推奨し、40代については、個別の判断とすることを提唱しています。

40代でのマンモグラフィ検診は、個別判断に委ねる性質のもので、集団としは推奨しない、という意味です。ただ、両親、子供、兄弟に乳がんの患者さんがいる場合には、よりリスクが高いと考えて、積極的に行なっても良いのではないか、という補足が付いています。(上記レターの最初にあるように、50から69歳のみマンモグラフィ検診を推奨、という国も多いようです。)

この判断は40代のマンモグラフィ検診をやや否定するようなニュアンスがあり、そのため世界的に大きな議論となりました。

どの年代にどの検査を組み合わせるべきか

アメリカにおいても、たとえばアメリカがん協会(ACS)は、基本的に年1回のマンモグラフィ検診を、40代でも推奨していて、行政の機関である予防医学専門委員会とは温度差があります。ただ、それでも40代前半についてはスクリーニングの効果には疑問のあることを認めています。

日本においては、40歳代の乳がんの比率はアメリカより多いので必ずしも同じ基準を適応することは妥当ではない、という意見があります。しかし、それでは日本においてどのような検診に有用性が高いのか、という点についての欧米レベルの精度の高いデータは、存在していないと思います。

トータルに考えて、乳がん検診をマンモグラフィのみで行う、という方針に限界のあることは間違いがないのです。ただ、それでは他のどのような検査をどの年齢層において、どのように組み合わせることが最適であるか、というような点についてはまだ結論が出ていないのが現状です。

それで積極的な推奨はせずに個別判断に任せる、というのがアメリカ予防医学専門委員会の方針で、いやいや、それでは多くのがんが、早期発見される機会が失われることになるので、不充分であっても現状はマンモグラフィ検診を継続するべきだ、というのがアメリカがん協会などの立場です。

日本では超音波検査やMRIも組み合わせて検査

日本においては、マンモグラフィ検診を基本としながら、超音波検査やMRI,マンモグラフィの改良型で、簡易CTのようなDBTなど、より感度の高い検査を組み合わせることが、主に検討されています。

しかし、現状国際的には、こうした検査をスクリーニングに用いた場合の、検診の有効性は確認されてはいないのです。40代でマンモグラフィに超音波を併用した臨床試験が、日本で行われていますが、まだ乳がんによる死亡の減少を、評価する段階には至っていません。

現状最も慎重で、科学的にその効果が確認され、受診者にとってデメリットよりメリットが間違いなく高い、という方法しか推奨しないのが、このアメリカ予防医学専門委員会のガイドラインです。

検査の間隔も、1年でも2年でもそれほどの違いはなく、結果の偽陽性や過剰診断は毎年の検査の方が多い、というデータを元に2年に一度にしているのです。

マンモグラフィの利点とリスクを医師と相談して

乳がんのスクリーニングには、特に50歳未満の年齢層においては、現状で満足のいく方法はない、ということをまず押さえた上で、各種のガイドラインなどを読み解いて、どの検査をどのようなタイミングでするべきか、個々の責任で判断をするしかないように思います。

上記レターにおいては、アメリカで乳がん検診を行っている専門施設の実際を調査しています。その結果、検診開始年齢を明示している431施設のうち、87.2%に当たる376施設では、上記ガイドラインでは推奨されていない、40歳からのマンモグラフィ検診を推奨していました。

検診の開始年齢と検査間隔を共に明示している施設のうち、81%は毎年の検診を推奨していました。マンモグラフィ検診の利点とリスクとを最初に医師と相談して、それから決定するような仕組みを導入していたのは、12%の施設に過ぎませんでした。

検査に対して明確な基準を

これは日本の検診機関においてもほぼ同様であると思いますが、根拠に基づく検診が望ましいということは、科学的事実としては分かっていても受診者はなるべく早く、頻回に検査を受けた方が安心という意識が働きます。医療者もより多く検診機会を設けた方が、安心だという意識が働くので、もっと明確な基準が定められないと、この悪循環を断つことは難しいのが実際であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36