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2021.04.23

寝る子は達者:睡眠は成長と健康の基【健康ことわざ#12】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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寝る子は達者:野上弥生子の小説「柴苑」(1908年)

意味:よく寝る子どもは健康で元気だということ。

解説

産まれたばかりの赤ちゃんは、一日に14時間から17時間ほど寝るそうです。一日の大半は寝ていることになります。成長とともに睡眠時間は短くなり、小学生では9時間から11時間程度です。成人は、7時間から8~9時間になります。ですから、大まかには、人生の三分の一は寝ていることになります。

どうしてこんなに寝ていなければならないのでしょうか。やや不思議です。すべての年代を通して、睡眠は疲労回復に欠かせません。特に成長期にあっては、睡眠時に二つのホルモン、成長ホルモンとメラトニンが分泌されます。成長ホルモンは、骨を伸ばし、筋肉を作る作用があります。成長期の睡眠不足は、成長の妨げに繋がるということです。

ことわざの表現の変化

このことわざの最後にある「達者」は、「息災」とか「肥る」と言い替えられていたこともあるようですが、現在では「育つ」に表現に収束しているようです。つまり、「寝る子は育つ」が、現在の言い回しです。分かりやすい表現に落ち着いています。

これ以外にも、「寝た子を起こす」、「寝る間が極楽」があります。前者は、どうにか収まったことを余計な手を出して、再び問題を起こす、の意味です。後者は、説明の必要もありませんが、寝ている時が一番の幸せということです。睡眠時間の少なくなった現代にも通じることわざかもしれません。

「寝耳に水」は、驚き慌てることの意味ですが、それに近い経験があります。
学生時代、キャンプに行き、川岸にテントを張りました。あいにく雨になり、早々に就寝。まだ暗いうちに目が覚め、川音がうるさいのでテントの隙間から手を外に出してみると、何と水が流れているではありませんか。増水した川がテントのすぐ脇まで迫っていたのです。慌てて、仲間を起こし、すぐにテントをたたみ、荷物を纏めました。流れの中に冷やしておいた果物の缶詰、前夜に使用し、川の水による自然洗浄を期待して水に沈めた飯盒や食器はすべて流されました。麓の旅館で朝飯を食べて、一晩限りのキャンプは終了となりました。

就寝中に水を掛けられたら、きっともっと驚くことになるでしょう。「寝耳に水」がないことを願いつつゆったりと寝て、疲労を回復しましょう。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い