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2020.09.06

私たちの「生理」を、もっとオープンに。起業家・ハヤカワ五味さんが描く未来像

kencom公式ライター:春川ゆかり

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すべての女性が通る道でありながら、これまでオープンに語られることのなかった「生理」。

諸外国と比べると“女性に対する理解”はまだまだ発展途上でありますが、日本においても女性の活躍・発信によって少しずつ「常識」が変わりつつあります。

テクノロジーや時代の変化によって、女性の性にまつわる理解はどのように進んでいくのでしょうか。今日は、生理用品のセレクトショップと生理管理サービス「ILLUMINATE(イルミネート)」を手掛ける起業家・ハヤカワ五味さんにお話を伺いました。

ハヤカワ五味(ハヤカワ・ゴミ)

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株式会社ウツワ代表取締役。1995生まれ、東京出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。大学入学直後にワンピースブランド「GOMI HAYAKAWA」、2014年にランジェリーブランド「feast」、17年にワンピースブランド「ダブルチャカ」を立ち上げる。19年5月に立ち上げた生理用品プロジェクト「ILLUMINATE」が話題に。2020年8月には、生理周期に合わせて必要な栄養を補給できる飲み分け方サプリメント「チケットサプリ」を発売。

自分の身体をもっと知ろう。「ILLUMINATE」について

―はじめに、ハヤカワさんが手掛ける「ILLUMINATE」について教えていただけますでしょうか。

サービスのイメージ

サービスのイメージ

ILLUMINATEという、女性の「生理」に特化したブランド開発を行っています。

LINEの公式アカウントに登録することで、LINE上で気軽に生理日管理ができるんです。その他にも、生理日に合わせたメッセージ配信や生理・女性の身体についての記事配信を行なっていて、生理にまつわるさまざまな情報が一元化されるよう設計しています。

登録されたユーザーの声を集め、生理周期に合わせて栄養補給ができるサプリメント「チケットサプリ」も開発しました。

―生理に関するさまざまな情報が一ヵ所で見ることができてとても便利でした。生理をテーマとした事業はどこから着想を得られたのでしょうか?

きっかけは大学の友人が作った卒業制作です。

ナプキンをはじめ生理用品のデザインって、ピンクやレースなど、なんとなく偏っているように思いませんか?良く言えば「女性らしい」「女の子っぽい」デザインですが、強調されすぎてしまって一目で生理用品だとわかってしまいますよね。また、生理用品を購入すると紙袋や黒いビニール袋で隠すかのように包装される。友人はそういう状況を疑問に思い、卒業制作として「新しい生理用品」をデザインしました。

こうしたアプローチもこれからの時代に必要とされるのではないかと考え、友人にデザイナーとして参画してもらい、2019年から事業として本格的に取り組み始めました。

大学の友人が卒業制作で考案したジェンダーレスな生理用品

大学の友人が卒業制作で考案したジェンダーレスな生理用品

―ハヤカワさんの事業といえばファッションのイメージがあります。最終的に生理を事業として手掛ける「決め手」となったものは何ですか?

ビジネス面として踏み切った理由には、大きく2つあります。

1つはターゲットが広いこと。これまで手掛けてきた、細身向けのワンピースブランドやバストの小さな女性向けのランジェリーブランドはターゲットが限られますが、生理についての問題は悩みの種類は違えどほとんどの女性が抱えますよね。

2つめは、課題が深いことです。生理は女性の誰しもが経験することなのに、家族や友人同士であってもなかなかオープンにしづらく「一人で抱え込みやすい」問題だと思います。

生理からくる心身の不調は、あくまでも身体・女性ホルモンのせいにも関わらず、「自分のせい」と捉えてしまうケースが少なくありません。だから、世の女性たちがより多角的な情報を得ることで、少しでも悩みや不快感を軽減できるのではないかと考えています。
また、社会側も一面的でネガティブな面だけが認知されているように思います。個人の問題だけに留めるのではなく、社会全体が理解し、受け入れる必要があるだろうと思います。

多くの女性が生理で悩んでいるという事実。そして女性が活躍する今、生理の問題は個人で抱えずに社会全体で捉えるべき分野です。社会的な価値観を変えやすくより多くの人に届けられると考え、事業として進める決断に至りました。

―確かに、生理中の不調を「自分の問題だ」と捉えている女性は多い印象です。

そうですよね。身体(ホルモン)のせいなのに、自分のせいだと誤認することで、自分自身への評価が下がりやすくなってしまう。生理や女性の身体についての適切な情報や対処を取ることで改善しうるものなのに、情報が遮断されていることで、女性が自分に対しての自己否定や自己肯定感の低さにつながってしまっていると思います。

不要に下がってしまった自己肯定感を高めていくことが、この事業を進めるにあたっての大きな原動力になっています。

タブーを破る。生理事業への挑戦で感じた障壁

―実際に生理事業・生理用品を手掛けるようになって、どのような大変さがありましたか?

そうですね…。世界に比べて日本は生理用品に関しての法律や取り扱いが非常に厳しいだけでなく、ナプキンなどの製造工場も大手が寡占している状況で、新規参入しづらい状況にあります。
※日本で生理用品を輸入・販売するためには、薬事法に基づく医薬部外品製造販売業の許可、製造業の許可および品目ごとの承認が必要

事業を押し進めるアイデアや気持ちがどれほどあっても、参入ハードルが高すぎて、試すことすらできない。計画が頓挫しそうになったこともありますよ。

―国によって生理用品の取り扱いは異なるんですね。同じ女性が使うものなのに驚きです。

はい。取り扱いや参入が厳しいからこそ、生理用品そのものの選択肢が少なくなってしまうんですよね。例えば、最近新しい生理用品として注目を集めている「月経カップ」や「生理用吸水ショーツ」も諸外国では生理用品を謳えますが、日本では雑品扱いです。

ネットショッピングやポップアップストアによって以前よりは購入しやすくなりましたが、商品そのものは良かったとしても手に届かなければ課題解決にはつながらないので、もどかしく感じます。

市場への課題に加えて、今のままでは興味のある人にしか「情報が届かない」状態になるのではないかということを懸念しています。

以前に比べれば生理についての話題を交わす機会が増えてはいるものの、他のテーマに比べるとインフルエンサーも取り上げづらかったり、口コミが起きづらかったりと、世の中全体で見るとまだまだ「タブー」の空気感であると感じています。

生理の捉え方・受け入れ方を根底から変えていくのなら、興味のある人だけではなく、興味のない人にも情報が届いてこそ成し遂げられるものだと思うので、認知度やタッチポイントを増やしていく必要があると考えています。

ハヤカワさんが掲げる「選択肢の多い未来」

―お話を伺うと、生理事業というテーマの裏には社会が抱えるさまざまな課題と結びついているように感じました。今後、ハヤカワさんが描く理想の社会とはどのようなものでしょうか。

生理に限らず、その人らしく生きられるような「選択肢の多い社会」が理想です。身近な例をあげると、夫婦別姓の選択やLGBT、その他にも何かしらの心身ハンデを抱えるような少数派の方も、本人が納得する「選択」ができるようになるといいなと思います。

私も、生理用品は「デザインが“女性らしさ”に寄っているからダメ」と言っているのではなく、「“女性らしい”デザインのものを選ぶしかできない現状」に異を唱えています。

―あくまでも大切な事は「個人個人にとって心地よい選択ができるようになること」ということですね。

はい。SNSなどではフェミニズムや生理用品の議論が白熱しやすく、新しい提案が逆に「女性らしいデザインは使ってはいけない」というような一辺倒な意見に聞こえてしまいやすくもあります。
本当にただただ純粋にレースやリボンがあしらわれたデザインが好きなだけの人に、「シンプルなものを選ばないといけない」「ピンクを使ってはいけない」というふうに聞こえてはいけないと思っています。

また、10年20年後の未来には「生理」の話題はひと段落して、出産の方法などが深く議論されるようになるのではないかなと予想しています。「命」が直接的に関わる分野なので、道徳・法律と照らし合わせて慎重に判断されるべきですが、これもまた、個人の選択肢を増やすものであって欲しいです。

―「個人の選択肢を増やす」…。確かに、私たちは自由に生きているようで、実際には「選択肢の中から選んでいる」だけなのかもしれないですね。

そうですね。生理に限らず、日常に用意されているありとあらゆる「選択肢」は大多数に向けたものであり、少数の人には向けられていない場面がたくさんあります。

私の望む社会の在り方は、前提として選択肢が多くあり、その選択肢の中に「自分の希望が叶うもの」が用意されていること。そして、誰の目を気にすることもなく、その選択肢を自分が選べるような「寛容さ」が社会に溢れるといいなと思っています。

一人一人が、自分らしい「選択」を

これまで、人に話しにくいもの、隠すものとして扱われることの多かった「生理」。

人に話しづらい話題であるがゆえに、心身のさまざまな不調・不快を「自分のせいだ」と我慢する女性も多かったのではないでしょうか。しかし、その不快も、正しい情報・知識を得て、適切な対処やアイテムを選ぶことができれば、改善が期待できます。

また、体調に限ったことだけではなく、生理用品もまた多様な意思が反映され、受け入れられる世の中になってほしいと思います。「女性のものだからこれ」と一方的に押しつけられたものを使うのではなく、月経カップや生理用吸水ショーツなどの新しいサニタリーアイテムの他、デザインにも種類が増えると、生理との付き合い方も変わっていくのではないでしょうか。

著者プロフィール

■春川ゆかり(はるかわ・ゆかり)

フリーライター・編集者。大手IT企業にてウェブメディアの広告やマーケティング業に携わる。その後フリーランスのライターとして独立し、住まい・子育て・ヘルスケアなどのジャンルで執筆。

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