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2022.01.19

両側の卵管卵巣摘出術後、生命予後はどう変わる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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病気の予防のために健康な臓器を摘出するケースも聞きますが、必ずしもそれが生命予後を延ばすことに繋がるとは限らないようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2021年12月8日ウェブ掲載された、以前は良性疾患で施行されることの多かった両側の卵巣と卵管を摘出する手術が、その予後に与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

両側の卵管と卵巣を摘出するリスクとは

「子宮筋腫で子宮と卵巣を一緒に取りました」という話は中高年の女性の方からは、以前は良く聞く話でした。

以前は卵巣がその後癌化するリスクを重視して子宮を摘出する際には、両側の卵巣と卵管を切除することが比較的スタンダードな方法であったのです。

ただ、卵巣癌リスクが切除により低下することは事実ですが、45もしくは50歳未満での両側卵管卵巣切除は、その後の総死亡のリスクを増加させるという観察研究の知見が複数報告されてから、卵巣は極力保存することが一般的になっていったのです。

若い世代の両側の卵巣卵管摘出術は、温存した場合と比べると死亡リスク増加

今回の研究はカナダのオンタリオ州において、良性疾患で子宮の切除を行なった、30〜70歳の200549名の女性を中間値で12年観察し、その手術時の年齢と卵巣卵管切除の有無、そしてその予後を比較検証しています。

その結果、子宮摘除術を施行した女性のうち、手術時45歳未満の19%、45〜49歳の41%、50〜54歳の69%、55歳以上の81%が、両側の卵巣卵管摘出術を施行されていました。

両側の卵巣卵管摘出術は、卵巣を温存した場合と比較して、45歳未満では総死亡のリスクが1.31倍(95%CI:1.18から1.45)、45〜49歳では1.16倍(95%CI:1.04から1.30)それぞれ有意に増加していました。

一方で50歳以上の年齢層では、有意なその後の死亡リスクの増加は認められませんでした。この死亡リスク増加の主体は、癌以外によるものでした。

閉経前の年齢は卵巣温存を積極的に考えて

このように、閉経前の年齢における良性疾患の子宮摘出時の両側卵巣卵管摘出術は、その後の総死亡のリスクに繋がる可能性が高く、卵巣温存を積極的に考えるべきであると考えられました。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36