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2019.04.03

LDLコレステロールや中性脂肪には「アポ蛋白B」が影響する?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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LDLコレステロールや中性脂肪は悪いものという印象を持っている人も多いと思いますが、「それらを運んでいる乗り物」のほうに意味があるという説もあるようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは2019年のJAMA誌に掲載された、コレステロールと中性脂肪を下げることの、それぞれの意義についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

LDLコレステロール値と中性脂肪値が高いと、動脈硬化のリスクUP

コレステロール、特に悪玉コレステロルと呼ばれることのある、LDLコレステロールを、低下させることが動脈硬化疾患の予防に繋がる、という知見はほぼ確立されています。
特に心筋梗塞などの再発予防や、心血管疾患のリスクの高い糖尿病の患者さんでは、スタチンという薬剤によって、血液中のLDLコレステロールを低下させることが、有益な治療であることが、各種のガイドラインにも記載をされています。

一方で中性脂肪に関しては、中性脂肪が高値であると、それだけでも動脈硬化進行のリスクとなることは、疫学データや観察研究などでは多く報告されていますが、薬剤などで中性脂肪を下げることにより、コレステロールのように明確にそのリスクを下げる効果は、確認をされていません。

LDLコレステロールや中性脂肪を運ぶ「アポ蛋白B」とは

ただ、コレステロールも中性脂肪も、形は違えど身体で利用される脂質であることには違いはなく、同じアポ蛋白という一種の乗り物に乗せられて、リポ蛋白という構造で血液中を運ばれている、という点では同じです。

このアポ蛋白にも種類があって、その役割が異なり、コレステロールや中性脂肪の数値自体よりも、それを運んでいるアポ蛋白の方に、より大きな意味があるのではないか、という考え方もあります。

アポ蛋白A1が主にHDLコレステロールを運び、アポ蛋白Bが主にLDLコレステロールを運んでいるので、LDLやHDLの数値の代わりに、アポBとA1の比率を用いるという指標が、推奨されたこともありました。

こうした指標の有用性が決してなくなった訳ではありませんが、最近はあまりそうした報告を目にしません。
現状LDLコレステロール値の有用性が確立しているので、それに代わる指標としての重要性が、一般臨床においては見出し難いことが、その主な理由であるように思います。

ただ、LDLコレステロールを充分に低下させても、それだけでは脂質異常症の患者さんにおける心血管疾患のリスクを、正常と同じにすることは出来ないので、そこに付加される指標が必要であることも、また事実ではあるのです。

アポ蛋白Bを低下させると、LDLコレステロールと中性脂肪も低下

今回の研究では、北アメリカとヨーロッパにおける、63の疫学データをまとめて解析して、中性脂肪が低くなる遺伝子素因と、LDLコレステロールの低くなる遺伝子素因の、心血管疾患リスクとの関連を比較検証しています。

中性脂肪を低下させる遺伝子素因も、LDLコレステロールを低下させる遺伝子変異も、いずれもアポ蛋白Bを低下させるので、その低下と心血管疾患リスクの低下との関連を検証しているのです。

その結果どちらの遺伝子素因も、心血管疾患リスクの低下に結び付いていましたが、それは同じレベルのアポ蛋白Bの低下と結び付いていて、アポ蛋白Bの変動で補正すると、その心血管疾患リスクの低下は消失してしまいました。

要するに、LDLコレステロール低下療法も、中性脂肪の低下療法も、その有効性はLDLコレステロールや中性脂肪の数値よりも、アポ蛋白Bを低下させることが、その効果の本質である可能性がある、ということを示唆する結果です。

今後、アポ蛋白B測定が重要な役割を果たすかも

アポ蛋白Bの増加はそれ自体の血管内皮への接触が、動脈硬化の誘因となるという仮説もあり、今後はアポ蛋白Bの測定が、一般臨床においてもより重要な役割を果たすことになるかも知れません。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36