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2019.02.20

飲酒運転予防効果はあるのか?血液アルコール濃度の規制値変更の話【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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日本でもたびたびニュースになる、飲酒運転での交通事故。血液アルコール濃度の規制値を厳しくしたら、飲酒事故は減るのでしょうか。
当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2018年のLancet誌に掲載された、血液アルコール濃度の基準値の変更が、飲酒運転予防に与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

飲酒運転の基準を厳しくするとどうなるか?

基準の厳格化は飲酒運転の抑止効果になる?

飲酒運転による自動車事故は、日本でも最近大きな問題となっていますが、海外でもその状況は同じで、個々の国においてそれぞれの、飲酒運転の規制の法律が施行されています。

ただ、検査においてどのレベルを超えるアルコールが検出されれば、それを飲酒運転と見做すかという基準値には、各国において少なからず違いがあります。

日本では血液のアルコール濃度が、0.3mg/mL以上が飲酒運転(正確には酒気帯び運転)の基準として使用されていますが、これは世界でも厳しいレベルの基準値で、欧米では0.8mg/mLを基準としていることが多く、それが最近0.5mg/mLに厳しくなって来ている、というのが実状であるようです。

基準値を厳しくすることには、どのような効果があるのでしょうか?

一般的には法律で基準値を厳しくすることにより、より少量のお酒でも捕まるということがある、という認識が広まって、飲酒後の運転により気をつけるようになり、飲酒運転が減るという抑止効果があると、そうした効果が期待をされています。

しかし、そうした効果は実際に証明出来るものなのでしょうか?

基準を厳しくしたスコットランドでは

交通事故の頻度には明らかな違いはなかった

スコットランドにおいては、2014年に血液アルコール濃度の基準値が、0.8mg/mLから0.5mg/mLへと厳格化されました。

今回の研究では基準値厳格化前後の、飲酒運転による事故や飲酒量などの疫学データ、および、コントロールとして基準値が0.8mg/mLのまま固定されている、イギリスやウェールズの疫学データも比較して、基準値厳格化の影響を検証しています。

その結果、飲酒運転の基準厳格化の前後において、バーやレストランでの個人の飲酒量は若干低下が認められましたが、交通事故の頻度には明らかな違いはなく、イギリスやウェールズとの比較では、むしろ事故数は基準が厳格化したスコットランドで多い傾向がありました。

お酒と正しく向き合って

これはトータルな事故の件数を見たものですから、これだけで基準値の厳格化が無意味とは言えませんが、単純に基準を厳格化すれば、それだけで飲酒事故が減ると考えるのは誤りで、「飲んだら乗るな」の啓蒙活動を含めて、飲酒運転の撲滅のためには、その効果を含めて科学的かつ多角的な検証が、必要であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36